偶像崇拝ちゃん

 ヒロシがいつものように、なんの捻りもなく泣きながら帰ってきました。なんでも金歯のヤツが「テレビ局のプロデューサーをやっているおじさんから貰った芸能人のサイン」を見せびらかしてきて、それがきっかけで、ヒロシは有名人のサインなど一枚も持っていない自分に生きる価値が見出せなくなってしまったのだそうです。



「芸能人のサインだして!」「というか芸能人だして!」「というか芸能人にして!」と泣きついてくるヒロシを、マルぼんは金色夜叉のように蹴飛ばしました。マルぼんの「他人は他人、自分は自分」という人生哲学が炸裂したからです。



ヒロシ「でも、僕だって金歯みたいに『貴美野鳥子』のサインが欲しいよ!」



 マルぼんの説教にも関わらず、泣き言をいうヒロシ。……うん? 『貴美野鳥子』…『貴美野鳥子』!?『貴美野鳥子』。今、人気絶頂のアイドル歌手。その人気たるや、デビューシングル『恋愛泥棒判決死刑』の売上げと狂ったファンによって勝手に役所に提出された婚姻届の枚数が共に200万枚を突破したほどです。



 マルぼんももちろん、『貴美野鳥子』の大ファンで、ファンクラブに入っていたり、有線に『恋愛泥棒判決死刑』をバカみたいにリクエストしたり、知り合いの団体職員(音楽をガンガンかけながら車で走るのが主な仕事)

に「これをかけながら走りなよ」と『恋愛泥棒判決死刑』のCDを渡したり、肝臓の調子が悪い『貴美野鳥子』のお父さんのために己の肝臓を差し出したりしました。



 そんな『貴美野鳥子』のサインを金歯が持っている。いてもたってもいられなくなったマルぼんは、人間を蛆虫にする光線銃片手に金歯の家に向かおうとしましたが、「やばいって!」とヒロシに止められました。



マルぼんは「サインを奪って、金歯は死なす。一族郎党、皆死なす」



ヒロシに「他人の貰ったサインなんて無価値だよう。偽物かもしれないだろ。本人から直接もらわないと意味ないよ。」



マルぼん「たしかにそうだ。その通りだ」と考えを改めました



 マルぼんは、あまり接点のない『貴美野鳥子』からどのようにして直接サインを頂戴するか考え、最適な機密道具を思い出しました。



『ハッとしてグッ刀』。人も殺せる日本刀型の機密道具で、叶えたい願いを入力した後、この体で己の体を傷つけたら願いが叶うのです。その傷が致命傷に近ければ近いほど、よいカタチで願いは叶います。



 マルぼんは早速、『ハッとしてグッ刀』に「貴美野鳥子のサイン欲しい」と入力。『ハッとしてグッ刀』をヒロシに渡し、



マルぼん「今から切腹するから、これで介錯して」と言いました。



ヒロシは泣いて拒否しましたが、マルぼんは「マルぼんは生き返ることができるから」「生き返らなくても魂は不滅だから」「ヒロシは小学生だからたいした罪にならないって」と説得し、実行に移させました。



令和元年 8月某日 マルぼん、永眠(享年0歳)





 夕方頃。「そろそろ晩御飯だね」と生き返ってみると、誰かがママさんを訪ねてきていました。

『貴美野鳥子』でした。


 

 ママさんを訪ねてきた『貴美野鳥子』。『ハッとしてグッ刀』の恩恵だというのは分かるのですが、いったいなぜ? マルぼんは首を傾げざるをえませんでした。



ヒロシ「最近、母さんがパートで闇金融を始めたからそれの客みたいよ」



 なんと『貴美野鳥子』、ママさんに豚扱いされても仕方ない額の借金をしていて、今日は借金の上乗せをお願いしに来ていたのです。そうなると新しい借用書が必要になり、借用書には当然……直筆のサイン!



 こうしてマルぼんは、世にも珍しい「貴美野鳥子の直筆本名サイン入り借用書」を手に入れたのでした。



「ワーイワーイ」と飛び上がらんばかりにマルぼんが喜んでいると、ヒロシがニヤニヤと笑いながら立っていました。その手には『ハッとしてグッ刀』がしっかりと握られていて……



「欲しいゲームがたくさんあるんだ。車とかもほしいし、お願い死んで♪」と、ヒロシ。



「自分を刺せば? 自分を斬れば?」と、マルぼん。



「それやったら死んじゃうよ」と、ヒロシ。



「マルぼんも生きているから、斬ると死んじゃうよ」と、マルぼん。



「でも生き返れるじゃん」と、ヒロシ。



「そりゃそうだ」と、マルぼん。



「色々ゲットしたら、色々貸すから」と、ヒロシ。



「頼むぜ、ヒロシ!」と、マルぼん。



「まかせなよ」と、刀を振り上げるヒロシ。



平成25年 8月某日 マルぼん、永眠(享年0歳)





 というわけで、今夜は徹夜でゲットしたゲーム三昧です。翌日。



 マルぼんとヒロシが『ハッとしてグッ刀』で手に入れた外車を『ハッとしてグッ刀』で手に入れたプロのレーサーの運転してもらって町を走っていると、自宅の奴隷に引かせた人力車でふんぞり返っていた金歯と出会いました。



「貴様ら生きる価値もない虫けらがなぜ外車に」と驚きを隠せない金歯に、聖母のような慈愛をその瞳に宿しているマルぼんは、親切にも『ハッとしてグッ刀』のことを教えてあげました。



『ハッとしてグッ刀』をヒロシからもぎ取った金歯は、なにやら入力すると奴隷の1人を突然斬りつけました。



「金歯がずっと探していた『リンゴ飴で300人殺した猟奇殺人犯の使用済みタオル』が、酒の席でのイザコザで相手をしに至らせて服役中だったナウマン象から届けられた』という連絡が入ったのは、その5秒後でした。



金歯「その道具、朕に売れよ」。



マルぼんたちに札束の入ったトランクを投げつけて、金歯が言いました。「水の代わりに石油を飲むよ」のキャッチフーレズでお馴染みで、欲しいものはなんでも手に入る金歯にも手に入らないものがあったのです。それは地球。この地球です。



「地球だって朕のものだー!」と言いながら、残っていた奴隷を斬りつける金歯。しばらくすると金歯は、「今、妖精さんが現われて、地球も宇宙も朕のモノだって! ウヘ、ウヘへ…」と叫び、服を全て脱ぎ捨て裸になってどこかへ走っていってしまいました。



『ハッとしてグッ刀』でも、あんまりな望みは叶えてくれないようです。



 犠牲者もでたし、『ハッとしてグッ刀』はそろそろ使い納めということになりました。



ヒロシ「ねえ、マルぼん。使い納めの前に、どうしても叶えたい願いがあるんだ」



なんでもヒロシは『貴美野鳥子』との絆が欲しいそうなのです。



 アイドルとそのファン、金を借りた人と貸した人の息子、借金のカタに臓器を差し出す人と「臓器出せや」と要求する人の子供、借金のせいで親類縁者にまで無言電話がかかる人と親類縁者の家に無言電話をする人の子供、借金を返さないことで中傷ビラを撒き散らされる人と借金を返さないことに腹を立てて中傷ビラを撒き散らす人の子供、〇〇される人(『マルぼんと暮らす』は親と子が笑って見られるサイトを目指しているので自主規制)と〇〇される人が〇〇されるように仕向けた人の息子(『マルぼんと暮らす』は親と子が笑って見られるサイトを目指しているので自主規制)というありふれた関係を超えた、血湧き肉躍り小鳥が空を飛ぶような素敵な関係になりたいのだと言うのです。




 ここまで大きな願いだと「マルぼんに代わりに死んでもらって、デヘへ」というワケにはいかないのですが、

「僕は軽く命をかけてもいい!」とヒロシの決意は変わらない様子。ヒロシの決意に感じるものがあったマルぼんは「死んでも死なない傷薬」を用意してやることにしました。

というわけで……



平成25年8月某日 大沼ヒロシ永眠(享年24歳)



 復活後、「『貴美野鳥子』と桃色な関係になるよ。きっとなるよ」とワクワクなヒロシ。「関係が深まるきっかけはきっかけはそこらへんにゴミのように落ちているのさ」と朝から出かけっぱなしです。



 その間、マルぼんはゲットしたドラクエに夢中だったんですが、夕方頃、近所の市民病院から「ヒロシくんが車に跳ねられて息を引き取りました」との連絡が。



 駆けつけてみると、ヒロシを跳ねたあと逃げ出すもすぐに逮捕されたという車の運転手の女性が「弁護士と相談したんですけどぉ、とりあえずぅ、一生かけて償いますぅ。遺族の皆さん、セカンドシングル『命の尊さ』もよろしくぅ。あ、写真集もでますよぉ。アッハハー!」と泣いていました。

お察しの通り『貴美野鳥子』でした。



 こうしてヒロシは憧れのアイドル『貴美野鳥子』と、アイドルとそのファン、金を借りた人と貸した人の息子、借金のカタに臓器を差し出す人と「臓器出せや」と要求する人の子供、借金のせいで親類縁者にまで無言電話がかかる人と親類縁者の家に無言電話をする人の子供、借金を返さないことで中傷ビラを撒き散らされる人と借金を返さないことに腹を立てて中傷ビラを撒き散らす人の子供、〇〇される人(『マルぼんと暮らす』は親と子が笑って見られるサイトを目指しているので自主規制)と〇〇される人が〇〇されるように仕向けた人の息子(『マルぼんと暮らす』は親と子が笑って見られるサイトを目指しているので自主規制)というありふれた関係を超えた、加害者と被害者という血よりも濃い法律も絡む関係になったのでした。


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