影の軍団
ヒロシ「ぎゃー!」
ルナちゃん「ヒロシさんてば、またマルちゃんの機密道具でひどいめにあっているわ」
ナウマン象「あいかわらずだな。ガハハハ」
大脳「そうでヤンスね」
金歯「誰?」
ルナちゃん「どちらさま?」
大脳「え」
ナウマン象「見慣れねえ顔だな」
大脳「あっしでヤンスよ、あっし。大脳でヤンス」
大脳は、ヒロシの友人として創ったキャラですが、使うのがめんどくさく、次第にフェードアウトさせてしまったやつです。設定としては天才。天才過ぎて脳がミュータント化しているとか、そんなやつです。
金歯「知らないでおじゃるなぁ」
大脳「そんなバカな!」
マルぼん「ひさしぶりの登場だから、みんな忘れてしまっているんだよ、大脳くんのことを」
大脳「しばらくでない間に、そんなにあっしの影が薄くなっていたなんて!」
ヒロシ「ぎゃー」
ルナちゃん「あ、今度はヒロシさんが爆発四散したわ」
ナウマン象「かつてヒロシだった肉片に野良犬が群がっているぜー!」
金歯「記念写真~記念写真~」
大脳「くっ。ヒロシばかり目立ちやがって」
マルぼん「一応主人公ですからねえ」
大脳「ヒロシの存在感があっしにもあったら」
ヒロシ「ぎゃー」
ルナちゃん「あ、爆発四散して天に召されたヒロシさんの魂が蛆虫に転生したわ」
ナウマン象「前世の行いが響いたね」
大脳「うらやましい!」
「ぎゃー」しかセリフのない人のなにがそんなにうらやましいのか知らないですが、マルぼんは大脳くんのために機密道具をだしてあげることにしました。
数日後。
ヒロシがなにをするでもなく、ただ道の真ん中で(死んだ魚のような眼をして)立ちつくしていたときのこと。
ルナちゃん「あ! 大脳さんが四つん這いになって地面をなめている! あれはまさか、大昔から伝わる幻の技『地球キス』じゃないかしら?! 『地球キス』は大いなる地球の力をキスによって己が体に蓄える秘術」
ヒロシのうしろ、ちょうど彼の影がさしているあたりの地面を大脳が舐めているのです。
マルぼん「地球キスとかじゃないよ。大脳は『影リップ』という機密道具を唇に塗っている。こいつを塗った唇は、影をなめとることができる。奴は地面ではなく、ヒロシの影を舐めとっているのさ」
ルナちゃん「大脳さんが舐めれば舐めるほど、ヒロシさんの影が薄くなっているわ」
ヒロシの影が薄くなると同時に、大脳の影が濃くなります。
マルぼん「舐めとった影は自分の影となる。影が薄くなった人は存在感がなくなり、濃くなった人は存在感が大幅アップする。ようするに、他人の存在感を奪い取ることができるんだ」
ルナちゃん「さっきから大脳さんが気になって気になってしょうがないのは、存在感が増したからなのね」
大脳は、目立つヒロシへのいやがらせを果たすと同時に、存在感を増したいという自分の願望をかなえたのです。
ヒロシの影はどんどん薄くなり、やがて
ヒロシ「ぎゃー」
影が完全になくなったのと、ヒロシが叫んで倒れたのはほぼ同時でした
マルぼん「影が薄くなることで存在感がなくなり、影が完全になくなることで存在感も完全になくなった。この世から、ヒロシという存在がなくなったんだ」
大脳「ふふふ。これで明日から、あっしが主人公の『大脳一口メモ~僕が彼女を好きなわけ~』が始まるでヤンスよ」
ヒロシの亡骸は、故人が好きだった海の見渡せる丘に埋葬されました。
ヒロシの影を奪い取った大脳は存在感が増し、2人分の存在感をもつことでみんなに注目されて、あっというまにバラ色の人生に突入。
得意絶頂の大脳。
マルぼん「大脳に手紙が届いているよ」
大脳「手紙? ファンからでヤンスかね。どれどれ……って、ぎゃー!!」
手紙はなんとカミソリレター。大脳は指を切ってしまいました。
大脳「いてて、なんだこの手紙は。ひどいでヤンスひどいでヤンス。いったい誰がこんなものを送りつけてきたでヤンスか」
マルぼん「大変だ、注文した覚えのない大量のピザや蕎麦が届いてきたぞ。ものすごい支払になる」
大脳「ええ?!」
マルぼん「大変だ、大脳の夜のマル秘画像がネットにばらまかれている!」
大脳「えええ?!」
マルぼん「あと、玄関のドアに『大脳は人殺し』と書かれたビラが貼られていたよ。いったいぜんたい誰の仕業だろう。うん、どうした大脳。顔色が悪いよ」
大脳「まさか、まさか」
大脳、突然、家を飛び出します。行き先は、ヒロシの埋葬されている海の見えるあの丘。
大脳「あ!」
ヒロシの埋葬された場所は、掘り返されていました。いや、掘り返されたというよりも、埋められていたものが這い出してきたといったほうが妥当でしょうか。当然、ヒロシの亡骸はそこにはありません。
大脳「あいつ、あいつ生きているんだ!」
と、そのとき、大脳のうしろのほうから物音がしました。
大脳「ヒロシかっ」
大脳が振り向いても、誰もいません。
大脳「隠れていても無駄だ、いるのはわかっているんだ。でてこい、でてこい!」
近くに落ちていた木の枝を拾って振り回しながら、叫ぶ大脳。
大脳「でてこい! でてこい! ヒロシでてこい! あはははははっ」
大脳の眼は、常人のそれとはあきらかに違う色になっていました。
マルぼんは、ヒロシの影を薄く、大脳のまわりにかすかにチラつく程度にまで薄くしてしまった『影リップ』の効果は絶大だと思いました。
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