スリル+ショック+サスペンス=恋

 僕たち平成生まれのニュージェネレーション(ノーフューチャー)が、空き地(持ち主の近所のおっさんが、諸事情で山奥の病院で治療中なので、野ざらし状態)でカードゲーム(必勝法=金を積んでレアカード買え!)に興じていると、金歯がやってきました。



金歯「やぁ愚民ども。必死に生きているでおじゃるか?」



ルナちゃん「こいつポアしたいひとー」



一同「はーい! はーい!」



金歯「おやおや(笑)それはそうと、今日はそちたちにおいしいお話があるんでおじゃるよ。今年も『金歯宅 人が演じるお化け屋敷 チコタン』を開催するのでおじゃる」



ヒロシ「はぁ? お化け屋敷ィ?」



ルナちゃん「クーダラナイ! やっぱりポアね、ポア!」



金歯「話は最後まで聞くでおじゃるよ。お化け屋敷にお化けをやってもらうため、朕は役者50人を呼んだのでおじゃる。ところが、庭の井戸から役者の1人が遺体で発見されたのでおじゃる。遺体は全ての髪の毛をむしり取られているという悲惨な状態…」



一同「……」



金歯「ところが、1人死んだはずなのに役者の数は50人のまま。で、ニュースとか見ると『相手の髪の毛を全てむしりとる連続殺人鬼』が服役中の刑務所から脱獄、このあたりをうろついているという情報」



一同「……」



金歯「本当のスリルが味わえるお化け屋敷。いかがでおじゃるかな?」



ナウマン象「お、俺は行くぞ!」



ルナちゃん「あたいも!!」



ヒロシ「僕も!」



金歯「ヒロシは無理。悪いでおじゃるな。このお化け屋敷、3人用なんでおじゃる」



ヒロシ「というわけで、僕もスリルを堪能しまくって、今頃殺人犯と遊んでいる金歯どもにギャフンと言わせて報復したいよ! 土下座さ、土下座!」



マルぼん「スリルなんてね、無理して堪能するものじゃ…」



がしゃーん!!



 マルぼんがヒロシと話をしていると、部屋に何かがを投げこまれてきました。催涙弾でした。




マルぼん「う、ごほっごほっ…い、いったいなんなんだ!?」



ヒロシ「きっと金歯の野郎だ。あいつ『ヒロシにはスリルと味わう権利(あと、生きる権利)はないでおじゃる。朕が決めたでおじゃる。だから、それ関係の会話をしてはいけないでおじゃる。わかったな! 常に監視しているでおじゃるからな!!』とか言っていたし」



ママさん「大変よ、今、どこの誰かもわからない人から『それ以上スリル関係の話をしたら死なす』という電話が!」



ヒロシズグランドファーザー「ヒロシ、今電話があって『諸事情で、お宅にはガスも電気も水も供給できなくなりました』って……」



タバ子(妹)「お兄ちゃん、下校中、なんかたくさんの人に後をつけられたよ!」



シン奈(妹)「お兄ちゃん、外回りに出ていたパパが、黒塗りに車に無理矢理連れ込まれたって連絡が!」



ヒロシ「あースリル味わいてー」



 鈍感さんなヒロシに軽く萌えつつ、マルぼんは、身に着けるだけで誰でも簡単にスリルを味わうことのできる機密道具アクセサリー『スリリング』を用意することにしました。



ヒロシ「装着したよ『スリリング』」



マルぼん「OK。これで君は、馬鹿でもスリルを味わうことができる。さっそく町へと繰り出そう。欲望渦巻く町へと」



 そんなわけで町…欲望渦巻く町へと繰り出したマルぼんとヒロシ(愚か者)でしたが、しばらく歩いてもスリル溢れるような事態は起こりませんでした。



ヒロシ「んだよっ! またカス道具か! 役に立たない居候だな! 生活費、来月から納めてもらうよ!」



マルぼん「おかしいな…おかしいなって…おい!」



 マルぼん超びっくり。なぜなら、ヒロシが大量の財布を手に抱えていたんですもの。「それはいったい」と尋ねてみると



ヒロシ「通行人とすれ違うたび、手が勝手に動いて…いつのまにかこんなにたまっていたんだ」



マルぼん「あ! この『スリリング』、同名だけど違う効果のヤツだ! これは…装着した人がスリになる『スリリング』! 今すぐ外せ!!」



ヒロシ「いや、結構」



マルぼん「え?」



ヒロシ「財布をとる瞬間、なんか背筋がゾクゾクして、体験したことのないような快感が僕を包んだんだ。最高さ、このスリルは最高さ…!!」



マルぼん「目を覚ませー!!」



 とっさに、ヒロシの首筋に注射(中身は「こういう時に使う、効果抜群のお薬。でも副作用で三日三晩死ぬほどの痛みに襲われるの。注意してね」)をするマルぼん。ヒロシは気絶したので、引きずって家まで帰りました。



 すれから数日後。



 ヒロシは今、拘束着+口に猿轡という出で立ちで、部屋の片隅に転がっています。別に「新たな快楽に目覚めた」とかそういうワケではなく、そうしないと、自ら死をえらんでしまうのです。



 注射のチカラで我にかえったヒロシは、自分のしでかした罪(スリ)の重圧に耐えられず、壊れてしまったのです。



 病院に連れて行こうと思ったんですが、近場にはすぐにロボトミー手術を勧めたり、「先生、メスが足りません!」「いけねっ、忘れてた。患者の中に」「もう、ドジな先生!」「あっははー」というやりとりをする医師と看護師が佃煮にするほどいる病院しかないので、無理です。



 なんかこう、将来に絶望的になったマルぼんは、気晴らしにテレビをつけました。ちょうどニュースが放送されていました。



ニュースキャスター『A国とB国が緊張状態に…』



ニュースキャスター『相次ぐテロにより…』



ニュースキャスター『包丁を持った男が…』



ニュースキャスター『発がん性のある物質が大気中に…』



 なんだ。



マルぼん「『スリリング』なんて使わなくても、世界に溢れかえっているじゃん。スリル」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る