食卓
朝の食卓。
ヒロシ「……」
マルぼん「……」
ママさん「……」
ヒロシ(テーブルに置かれた空の茶碗を見つめる)
ママさん(無言で炊飯ジャーを指差す)
マルぼん(一膳目を食べ終わったので、二膳目を食べようと炊飯ジャーへ向かう)
ママさん(汚いものを見るかのような目つきでマルぼんを見る)
マルぼん(ママさんの視線に気づき、庭に出て雑草とかむしって食う)
ヒロシ(もくもくと食う。飯を食う)
パパさん(競馬新聞とはずれ馬券を装備し、スキル『酒の臭い』を発動させつつ、ただいま帰宅。48時間ぶり。家族に見つからぬよう、タンスの中に隠されているヒロシの給食費の捜索開始)
ママさん(パパさんに行動に気づく。タンスの部屋に駆けつける)
マルぼん(雑草を食べ終わる。タンスの部屋でママさんとパパさんが命を奪いあっているが、無視)
ヒロシ(ご飯を食べ終わる。そこに担任から『明日は学校に来てね。みんな待っている』という電話。そういえば一週間くらい学校に行っていないことを思い出すが、返事をせずに切る)
マルぼん(お茶をすする)
ヒロシ「僕、いずれ生まれるであろう自分の子供に、己の人生を誇れる自信がないや」
マルぼん(無視。お茶をすする)
ヒロシ「というわけで、なんの面白みもない人生を、ジャンプに連載されて後にアニメ化されるような人生に変える機密道具ない?」
マルぼん「こんな冷めた空気の家で暮らしたくないし、出してやろう。『熱血キット』。人生を熱くしてくれる、かつて少年だった全てのオトナに捧げる機密道具さ。こいつを摂取すれば、人生のあちこちで燃える展開に遭遇できる。さっそくキミの人生を熱血に注入しよう。注射器タイプの機密道具で、血管に直接熱血分を注入するから速攻で効くよ」
ヒロシ「お。なんか、なんかオラ、ワクワクしてきたぞぉ…って、うぐ!」
マルぼん「あ、ヒロシがまた吐血した! 救急車を!!」
救急隊員「急いで車に!」
ヒロシを搬送するべく走り出した救急車。その救急車を、光が包みました。
マルぼん「う…ん。あ…なんだ? ここはどこ? 見慣れない光景が広がっているぞ」
救急隊員「どこでしょう。ここはいったい…」
ヒロシ「うう…」
謎の美少女「あなたをこの世界に召喚したのは私です」
救急隊員「あなたは?」
謎の美少女「私はアナ。魔術師です。あなたはこの世界を救う使命を帯びた(中略)おねがいです。魔王を倒してください、勇者さま!」
救急隊員「わかりました。この命が、この世界の役に立つのなら…」
アナ「あ、ありがとうございます!!」
こうして勇者救急隊員の冒険がはじまりました。彼にはこの先、たくさんの困難が待ち受けているでしょう。だがしかし、ほんの一握りでも勇気があれば、彼はいかなる困難も乗り越えていくはずです。
勇者に幸あれ!!
※ヒロシはまもなく息をひきとりました。
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