完全版大沼ヒロシ

ヒロシ「ああー! ネットで注文していて本日ようやく到着した『わんぱく容疑者 シドロとモドロ』の最新刊、帯がついていない! ちくしょう、苦情だ、苦情の電話だ!」



マルぼん「帯くらいいいじゃないの。きちんと読むことさえできれば」



ヒロシ「いいものかよ! マニアにとっては、帯は本そのものよりも大切な場合があるんだぜ!  帯があってはじめて完全なんだ!  帯がなきゃ、不完全さ!  激しく不完全さー!」



マルぼん「不完全こその美しさもあるんじゃないかな? 」



 マルぼんが心のこもった説得をしたものの、「帯がない、帯を返せ、いっそのこと殺せ」とヒロシが騒ぎます。「私もうムリ! この子のこと愛せない!」と思ったマルぼんは機密道具を出すことにしました。



マルぼん「『完全判』。この判子を押したものは、なんでも完全になってしまう。たとえば、半分食べてしまったケーキに押すと、食べた部分が復活して完全な状態になる」



 マルぼんが、『わんぱく容疑者 シドロとモドロ』の単行本に『完全判』を押すと、失われた秘宝こと帯がいきなり湧いて出ました。



ヒロシ「すごいや、これでマニア仲間に『貴様の単行本、帯がないじゃないか。ぷっ(笑)』とバカにされずにすむぞう!」



 喜んでいたヒロシ、じっと『完全判』を見つめます。



ヒロシ「これを自分の体に押せば、もしかしたら僕は完全な人間になれるのではなかろうか」



 自分の体に『完全判』を押すヒロシ。しかし、なにも変わったことはナシ!



ヒロシ「さすがにそんな虫がいい話はないか。ふう。あきらめて、『わんぱく容疑者 シドロとモドロ』の最新刊でも堪能するかぁ。どれどれ。って、痛っ」



 さすが新刊本。紙の端がするどくなっていて、ヒロシは指先を少し切ってしまいました。



ヒロシ「あれ?」



 なんということでしょう。切り傷がすごい勢いで広がっていきます。ヒロシは声ひとつ出せません。傷はあっというまヒロシの指を裂き、手のひらを裂き、腕を裂き、体を裂き、ヒロシの体を完全に2つにひき裂いてしまいました。そう、完全に。マルぼんは、切り傷まで完全にしてしまう『完全判』の効果は絶大だと思いました。

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