ヒロシ、ルナちゃんを執拗につけまわす

 学校の帰り道、ひとりで帰るルナちゃんを目撃したヒロシ。気弱な性格が災いし、ルナちゃんに声をかけることもできず、ただルナちゃんをうしろからつけまわし、ルナちゃんの動きのひとつひとつをメモし、ルナちゃんを写真に撮り、ルナちゃんへの卑猥な妄想を自分のプログに書き綴ることしかできないヒロシ。



 しかし今日のヒロシは一味ちがう。ルナちゃんと一緒に帰ろうと決意し、なけなしの勇気を振り絞る!



ヒロシ「ぼくと一緒に帰りませんか」



ルナちゃん「うん? べつにいいけど」



ヒロシ「やったー!!」



 妄想力世界ランキング23位のヒロシにとって、『一緒に帰る』というのは『一緒に死ぬ。同じ墓に入る。来世は自分が林家ペーで相手がパー子』と同じくらいの意味合い。喜ぶのも無理がありません。が。



豊島サン「ルナちゃん」



ルナちゃん「豊島サン!」



ヒロシ「六年生の豊島サン!?  え、いったいどういう繋がり!?」



ルナちゃん「豊島サンのお父様が、わがギュルペペ神団の熱心な教徒なの」



ヒロシ「この女にはそっち方面の知り合いがいることを忘れていた!」



豊島サン「私もご一緒してよろしいか」



ルナちゃん「ええ、もちろん」



 ライバル登場に焦るヒロシ。ルナちゃんの気をひこうと話しかけるのですが



ヒロシ「あの、昨日の『アニマルアヘン戦争』観ました? この春一番のおすすめアニメなんだけれど」



豊島サン「(無視して)尊師曰く、欲望すなわち己。己とはすなわち不浄なもの」



ルナちゃん「だから不浄な金を尊師に清めていただいて、全人類は幸せにならなければいけないのね」



ヒロシ「えっと。えっとですね、つまりは欲望とは悪ということですか?」



ルナちゃん「は?」



豊島サン「バカなのに賢いふりをして、わからないことに口をだすべきではないよ」



ヒロシ「うわ。うわぁぁぁぁぁぁぁん」



 翌日



ヒロシ「ルナちゃんー」



ルナちゃん「ヒロシさんじゃないの」



 ルナちゃんのところに現れたヒロシは足輪を足につけていました。その足輪は鎖で鉄球と繋がっています。



ヒロシ「僕とね、宗教談義をしよう。ギュルペペ神サマによる救いの話とか」



ルナちゃん「どうせその鉄球つき足輪は機密道具で、どんな話でもうまくできるようになるとかそんなでしょ」



ヒロシ「!!」



ルナちゃん「図星だね。で、それはどういう機密道具?」



ヒロシ「『口からデマ枷』。この枷をつけていると、口にしたデマとかデタラメが本当になるの」



ルナちゃん「なるほど。まったく知らない話題で適当なことを言っていても、デタラメが本当になるから『どんな話題でも付いてゆける時代の寵児』ということになるのね。賢しい!」



ヒロシ「好きにならなくてもいいから、嫌いにならないで!!」



ルナちゃん「いいわよ。でもその代わり…その『口からデマ枷』を貸してもらえるかしら」



ヒロシ「へ?」



 ルナちゃんはヒロシから『口からデマ枷』を奪うと、自分の足に装備しました。



ルナちゃん「わがギュルペペ教団は、飛ぶ鳥落とす勢いです」



 そう叫ぶと、『口からデマ枷』を外すルナちゃん。



ルナちゃん「これでわが教団はものすごい勢いになるはずよ。今頃、入信希望者が急増しまくって、他の宗教を駆逐しまくっているはず」



ルナちゃんは笑いながら去っていきました。



ヒロシ「なんかしらけた」



 ヒロシは家に帰りました。



 数日後。微笑署に『近所のギュルペペ教の施設の周りで、最近、鳥がたくさん死んでいる。異臭もする』という通報がありました。



 駆けつけた警察官が家宅捜索を行ったところ、多数の劇物が発見され、異臭の原因はそれらの原因の調合ということもわかりました。



 この調合物が人ごみで散布された場合、かなりの数の死傷者がでるところだったそうです。



 取調べをうけた教団信者の女子小学生は『どんな病気でも完治する万能薬を作っていただけだ』とわけのわからないことを言っていたそうです。



ヒロシ「これが本当の飛ぶ鳥落とす勢い、か」



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