仏の顔も

担任のデモシカ先生「おろかもーん!  廊下に立っとれ!」



ママさん「この愚か者!  やはりあの男の子供だよ!  あの男の子供だよ!」



警察官「こんな時間に外を出歩くなんて、なんて愚かな子供だ!」



ヒロシ「以上のような感じで、ここのところ怒られっぱなしな僕です」



マルぼん「少しは自分の人生のあり方とかを考えてみてはいかがかな」



ヒロシ「僕はよく言えば純真な人間なんだ。だからドジもする。まわりはもっと気をつかって、僕が失敗をしても笑って許してやるべきだ」



マルぼん「なら、許されてみるか。『仏の顔マスク』。このマスクを被った人は、三度まで、どんなことをしても許されるんだ」



ヒロシ「わーい、僕、かぶりゅー」



 そんなわけで『仏の顔マスク』を被ったヒロシ。



ヒロシ「さて、どうせ許されるのなら、すごいいたずらをやってみたいなぁ。……そうだ」



 ヒロシは、ひきこもり生活で部屋に溜まった、大量のゴミ袋のひとつを抱えました。抱えたまま、窓のほうに向かい……



ヒロシ「一度、二階から色々なものを投げ捨ててやりたかったんだ!」



 最高の笑顔を見せながら、ゴミ袋を投げ捨てました。



???「ギャー!!」



 悲鳴と、人の倒れる音。外ではナウマン象が倒れていました。近くには、ヒロシが投げ捨てた巨大なゴミ袋。



マルぼん「当たったらアウトのところに直撃したんだ!」



 霊安室。顔に白い布をかけられて横たわるナウマン象を、ヒロシは呆然と見つめています。取ることを忘れたのか、『仏の顔マスク』もつけたままです。「こんなことになるなんて、そんなつもりじゃ…」と、呟いています。



女性「あなた!」



 霊安室に駆け込んできたのは、被害者の奥さんです。



奥さん「ああ…う、あああ。あなたぁ…あなたぁぁぁぁぁぁ」



 ナウマン象の遺体にすがりつき、泣き叫ぶ奥さん。



ヒロシ「あ、あの」



奥さん「!」



 ヒロシが話しかけると、奥さんは一瞬ビクッとして



奥さん「あなたは、悪くありません……」



といいました。



奥さん「だれも悪くない。これは、うちの人の運命なんです。悪く…あなたは悪く…う。う…あ、ああああああ」



 後半は、言葉になっていませんでした。



ヒロシ「う。あああああ」



 突然、髪をかきむしり始めるヒロシ。そのまま走り出し、霊安室を出ます。



ヒロシ「僕を許さないでくれ!」



ヒロシ「僕を憎んでくれ!」



ヒロシ「ああああああああ」



 自分の犯した罪を誰もが許し、自分を責める人がいない。責める人がいないのなら、自分で自分を責めるしかない。自責の念は、被害者の分までヒロシの心を攻め立てます。激しく。激しく。他の誰かが「人殺し」と罵ってくれるほうが、「死ね」と罵声を浴びせてくれるほうがどんなに楽か。ヒロシは、意味のわからないことを叫びながら、走り続け、そして消えました。



 マルぼんは、『仏の顔マスク』の効果は絶大だと思いました。

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