みんながだれかの幸せを考えたらきっと世界は

 その日、ルナちゃんは朝からワクワクしていました。なぜかというと、家族でレストランへ行くからです。



ルナちゃん「ふんふんふんふーん♪ ステーキステーキ座布団ステーキ~♪」


 

レストランの名物である「座布団みたいにでかくて、しかもバカ美味いステーキ」を心待ちにしているルナちゃん。楽しみで楽しみでしょうがなく、路上で踊り狂っています。信仰に全てを捧げた敬虔な少女という仮面をかなぐりすて、ただ狂おしいほどに肉を求めるルナちゃんなのでした。



ルナちゃん「あと数時間もしたら、座布団ステーキを食べることができるわ! あんな美味しいものを食べられる……なんて幸せなのかしら、私は!」



ヒロシ「おーい、ルナちゃん」



ルナちゃん「あら、ヒロシさん」



ヒロシ「いきなりだけど、このメダルをあげるよ」



ルナちゃん「メダル?」



ヒロシ「お守りみたいなものだよ。大事に持っていてね。それじゃ!」



 メダルをルナちゃんに渡すと、ヒロシは足早に去っていきました。




  その日、金歯は朝からワクワクしていました。なぜかというと、長年捜し求めていた「某有名殺人犯が犯行直後から逮捕直前まで書いていた日記(大学ノート2冊分)」が、今日手に入るからです。



金歯「ふんふんふんふーん♪ 日記日記殺人犯の日記~♪」



 血の出るような思いをし、日本のサラリーマンの平均年収を上回る大枚をはたいて購入した「某有名殺人犯が犯行直後から逮捕直前まで書いていた日記(大学ノート2冊分)」を心待ちにしている金歯(殺人犯の持ち物コレクター)。楽しみで楽しみでしょうがなく、路上で踊り狂っています。礼儀正しい大金持ちの跡取り息子という仮面をかなぐりすて、ただ狂おしいほどに殺人犯の日記を求める金歯なのでした。



金歯「あと数時間もしたら、殺人犯の日記が手に入るでおじゃる! あんなレア物が手に入る……なんて幸せなのおじゃろう、朕は!」



ヒロシ「おーい、金歯」



金歯「おや、ヒロシ」



ヒロシ「いきなりだけど、このメダルをあげるよ」



金歯「メダル?」



ヒロシ「お守りみたいなものだよ。大事に持っていてね。それじゃ!」



 メダルを金歯に渡すと、ヒロシは足早に去っていきました。



 その日、ナウマン象はワクワクしていました。なぜかというと、今日結婚するからです。



ナウマン象「ふんふんふんふーん♪ 嫁嫁美人の嫁~♪」



 運命的な出会いをした嫁との初夜を心待ちにしているナウマン象。楽しみで楽しみでしょうがなく、路上で踊り狂っています。みんなから頼りにされているガキ大将という仮面をかなぐりすて、ただ狂おしいほどに女体を求めるナウマン象なのでした。



ナウマン象「あと数時間もしたら、美人の嫁とむふふふ! あんな美人の嫁をもらえる……なんて幸せなんだろう、俺は!」



ヒロシ「おーい、ナウマン象」



ナウマン象「おう、ヒロシ」



ヒロシ「いきなりだけど、このメダルをあげるよ」



ナウマン象「メダル?」



ヒロシ「お守りみたいなものだよ。大事に持っていてね。それじゃ!」



 メダルをナウマン象に渡すと、ヒロシは足早に去っていきました。




 3人にメダルを渡し終えたヒロシは、急いで自宅へと戻りました。とるものもとりあえず、自室へと飛び込むヒロシ。部屋では、マルぼんが巨大なマシンをいじっていました。



マルぼん「首尾は?」



ヒロシ「上々。例のメダル、きちんと渡してきたよ」



マルぼん「それはなにより。いよいよ、この『幸せお裾分け機』を起動させるときがきたよ」



 マルぼんがいじっているのは、『幸せお裾分け機』という機密道具。ヒロシがルナちゃんたちに配ったメダルは、その付属品です。このメダルを所持している者が幸せになった時、その幸せの半分が『幸せお裾分け機』の前に転送されてくるのです。



 事の起こりは数日前。ルナちゃんや金歯やナウマン象が、近々幸せな目にあうことを本能で知ったヒロシ。どんな幸せなのかは分からないものの、自分を差し置いて他人が幸せになるのは我慢なりません。「あいつらの幸せ、少しでいいから分けていただきたい」とマルぼんに相談したのがきっかけで、この機密道具の登場となったのでした。



マルぼん「わくわくするね! わくわくするね!!」



ヒロシ「マルぼん。僕ひとつ疑問があるんだけど、幸せが半分だけ送られてくるってどういうことさ」



マルぼん「ああ、それは」



 と、そのとき、マルぼんの言葉を遮るように、『幸せお裾分け機』がけたたましい音を鳴らして、振動をはじめました。



マルぼん「『幸せの半分』が送られてくるぞ!」



  『幸せお裾分け機』がまばゆい光を放ちます。まぶしさから、とっさに目を閉じるヒロシ。しばらくして目を開けると、いつの間にか、部屋の真ん中にステーキが転がっていました。並みのステーキとは段違いの大きさです。



ヒロシ「でかいステーキ? なんでこんなものが」



マルぼん「とりあえずいただこうや」



 マルぼんとヒロシはルナちゃんに感謝しつつ、ステーキを美味しくいただきました。その頃、某レストランでは、食べようとしていた座布団ステーキの半分が突如として消失したことにびっくりしたルナちゃんが、尋常ではないくらいのパニックに陥っていましたが、それはまた別の話。



 しばらくすると、再び『幸せお裾分け機』が振動を始めました。



マルぼん「今度は金歯の『幸せの半分』だ」



 再び光を放つ『幸せお裾分け機』。目を閉じるヒロシ。目をあけると、一冊の大学ノートがありました。



ヒロシ「なんだろう、このノート。おやおや、はじめから終わりまでびっしりと書き込んであるよ。しかも赤いボールペンで。なになに『死はこの世で唯一、全ての者が平等に与えられる天からのプレゼント。だから俺は悪くない』なんか気色の悪いことばかり書いてあるな」



マルぼん「そんな気持ちの悪いノート、燃やしてしまおうぜ」



 マルぼんとヒロシは、ノートをさっさと燃やしてしまいました。ちょっとだけ、ストレス解消になりました。読者の皆さんは、物を燃やす際は周りのオトナに協力してもらってくださいね。その頃、金歯宅では、せっかくゲットした殺人犯の日記の1冊が突如として消失したことにびっくりした金歯が、尋常ではないくらいのパニックに陥っていましたが、

それはまた別の話。



マルぼん「もうわかったと思うけど、『幸せの半分』っていうのは、『幸せのもとになるものの半分』のことなんだ。ルナちゃんは大きなステーキを食べることに幸せを感じていた。だから、ステーキの半分が送られてきた。金歯はあのノートを手に入れることが幸せだった。だから、ノートの半分が送られきたわけさ」



ヒロシ「なるほど。しかしこの大きさで半分とは、どんだけでかいステーキを喰らおうとしていたんだ、ルナちゃんは」



マルぼん「あんな気色悪いノートに幸せを感じる金歯もうどうかしているね」



 しばらくすると、再び『幸せお裾分け機』が振動を始めました。



マルぼん「次はナウマン象だね」



ヒロシ「わくわくするな。あいつ、どんなものに幸せを感じているんだろう」



 『幸せお裾分け機』が光を放ちます。目を閉じるヒロシとマルぼん。しばらくしたら、ナウマン象の幸せのもととなるもの、その半分が眼前に現れるのです。光が薄れていくのを感じたヒロシは、ゆっくりと目を開けました。そこには―

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