また、毛の話をする

ルナちゃん「このペットボトルに入った水が、すごく高く売れるのよ。1リットルあたり5万円よ!」



ヒロシ「え、なんでそんなに高く売れるの!?」



ルナちゃん「われらが尊師の髪の毛が1本入っているのよ。尊師の髪の毛はありとあらゆる病に効果があって(以下省略)」



ヒロシ「とりあえず僕はいらないからね、その水。帰ってくれないかな。君にも帰る場所があるのだろう」



ルナちゃん「ちがうのちがうの、ヒロシさんに水を売ろうというつもりは毛頭ないの。実は相談があるのよ。この『毛水』を作りまくろうと、尊師ってば己の髪をむしりまくってしまったの。で、今現在、とんでもないことになっているのよ、尊師の頭が。ほら、見て、尊師の写真」



ヒロシ「たしかにすごいことになっているね」



 ルナちゃんのところの尊師といえば、カリフラワーみたいな巨大アフロヘアーが特徴でした。怪しげな呪文を唱えながら、アフロの中からブローチとか、写真とか、犬の骨とか、灰とか、赤ちゃんとか、生き別れた兄とか、エビピラフとか、「次、万年筆とかだすからよろしく」とアシスタント役の信者に渡すメモとか、イスとか、ベンツとか、「もう止めるんだ。そんなことをやっても餌をあげられないんだ」と言っても芸を止めない象とか、夢とか、希望とか、好きとか嫌いとか最初に言い出した人とかを取り出すパフォーマンスは、世間を騒がせたものです。騒がせすぎて警察が動いて、施設から色々押収されたものです。カナリアの入った籠を持った、捜査員とかに押収されたものです。



 そんなアフロも見る影もなく、尊師の頭は草1本生えていない荒野となっていました。



ルナちゃん「このままじゃ新しい『毛水』を作れないし、信者に対する威厳も保てないわ。ねえ、マルちゃんに頼んでなんとかしてもらえないかしら。もちろん、それ相応のお礼はさせてもらうから」



 困っている人(もしくは、多額の現金)を見ると黙ってはいられないヒロシは、さっそくマルぼんに相談をもちかけました。



マルぼん「いい機密道具があるよ。『毛移動のパンツ』。このパンツをはくと、体中のあらゆる毛が頭に生えてくる。すね毛やわき毛、あんなところの毛やこんなところの毛も、本来生えるべきところに生えず、頭に生えてくるんだ」



 あんなところの毛やこんなところの毛が頭に生えてきても困るだけだと思うのですが、金! 金! 金! の大沼ヒロシさんは、『毛移動のパンツ』をルナちゃんに渡しました。



ルナちゃん「これで尊師の頭も緑の大地よう」



 パンツを尊師にはかせるというルナちゃん。おもしろそうなので、ヒロシもついていくことになりました。



ルナちゃん「尊師、実はかくかくしかじか」



尊師「このパンツをはけば小生の頭が甦るとな! でかした、モッサリブロンソン(ルナちゃんのホーリーネーム)」



 尊師はさっそく『毛移動のパンツ』を履きます。その瞬間から、色々な毛が尊師の頭に生えてきます。尊師の体の、ありとあらゆる毛が頭に生えてきているのです。



尊師「春だ! 春が来た!」



 喜ぶ尊師。と、そのとき。突然電話が鳴り始めました。



ルナちゃん「わ! びっくりした!」



ヒロシ「いきなり鳴るとびっくりするもんだね、電話の音も。あれ、尊師の様子がおかしいよ。ありゃ、死んでるや。まぬけな顔だねえ」



 死因は、電話の音にビックリしすぎたことによる心臓麻痺でした。



ルナちゃん「尊師が、電話の音くらいに驚いて死ぬなんて。尊師は度胸のあるお方だったのよ。目の前に雷が落ちても平然としていたし、警察に捕まったときも『私は潔白だ。やってない』と自らに言い聞かせるかのごとく、ひたすら意味不明なことを呟き続けて乗り切ったし。なんで電話の音くらいで……『尊師の心臓には毛が生えている。それも剛毛だ』なんて冗談も言われていたくらいなのに……」



 ヒロシは、心臓の毛まで頭に移動させてしまった『毛移動のパンツ』の効果は絶大だと思いました。

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