いつもいつでもうまくいくなんて
マルぼん「今日は大沼さんに耳寄りなお話があります」
ヒロシ「聞きたくありません」
マルぼん「素晴らしい機密道具の話です」
ヒロシ「聞きたくありません」
マルぼん「本当に素晴らしいのです」
ヒロシ「聞きたくありません」
マルぼん「そうですか」
ヒロシ「そうです」
マルぼん「それならば、仕方ありません」
ヒロシ「あきらめてくれましたか」
マルぼん「このナイフで私の腹部を刺してください」
ヒロシ「なんですって」
マルぼん「刺してください。私の腹部を刺してください」
ヒロシ「ご先祖様、申し訳ありません。ヒロシの手は血で汚れます」
言われるままに、マルぼんの腹を刃物のようなもので刺したヒロシでしたが、神の奇跡か仏の慈悲か、マルぼんは死ななかったのです!
ヒロシ「な、なぜ!? 日ごろの恨みをこめて、えぐるように何回も刺したのに死なないの!?」
マルぼん「そこで、ご紹介したかった機密道具の登場ですよ。『絶対保証書』! この保証書はどんなものにでも使える保証してくれる魔法の保証書なんだ。たとえば、この保証書に『自分の家の床の間にある青色の壷』と書いた後、その壷を破壊するだろ。すると、破壊された瞬間に保証書の効果が発動して、壷は元に戻っているんだ」
ヒロシ「するとマルぼんが刺されても死ななかったのは」
マルぼん「『保証書』に『マルぼんの命』と書いたのさ。刺されたとき、マルぼんは確実に死んでいたのだけれど、保証書の効果で即座に命が保証されたの」
ヒロシ「命の保証までしてくれるなんて! すばらしい機密道具じゃないか。それさえあれば不死身?!」
マルぼん「保証書1枚につき、保証の回数は1回だよ。不死身になりたきゃ、こいつを何枚も用意しなきゃならないよ」
ヒロシ「年度末はなにかと忙しくて、命を落とすことも多々あるだろう。その保証書、いただこうかな。おいくら?」
マルぼん「はい、毎度あり。えっと、上・並・下と三種類あるんだけど、どれにする?」
ヒロシ「上とか並とかで、効果が違うの?」
マルぼん「うん。並だと、壊れたり死んだりする直前の状態で保証されるんだ。下は値段が安いんだけど、以前よりもグレードがダウンして保証される。たとえば、機械だとネジが一本足らない状態、人間だと頭のネジが一本足らない状態で保証されたりする」
ヒロシ「ということは、上だと…」
マルぼん「以前よりもグレードが上がった状態で保証されるわけだね」
ヒロシ「(ということは、あれじゃねえか。『絶対保証書(上)』で自分の命を保証したあと、わざと自らの命を絶つ。そして保証されて復活。そうすることで、パワーアップできるのでは!?)。上を一枚所望します!」
ヒロシは『絶対保証書(上)』を受け取ると、さっそく『大沼ヒロシの命』と書き込みました。そして。
マルぼん「今から死ぬだって!?」
ヒロシ「大丈夫『絶対保証書(上)』の力で、以前の僕より素晴らしくなって復活するんだから! じゃあ、ね!」
満面の笑みを浮かべて、窓から外へと飛び降りるヒロシ。ここはマンションの13階。
マルぼん「ヒロシィ! 『絶対保証書(上)』は、捺印もしないと効果がでないんだ! 捺印してないぞ、おい、ヒロシィー!」
ヒロシ「(落ちながら)え、マジで!? 僕死ぬやん! でも、まぁ、いいか。もし僕が死んだらね、お墓はいらないよ。でも、死体は学校の裏山に埋めて欲しいな。自然がいっぱいだし。それにあそこなら、町全体が見渡せるだろ。大好きな町が。自然に囲まれながら大好きなものを眺める。最高じゃないか。頼んだよ。バイバイキーン。ぐべらっ」
マルぼんは、遺言通り、ヒロシの遺体を裏山に埋葬しました。
マルぼん「ここなら、微笑町が見渡すことができるだろ。静かに眠りな、ヒロシ」
しばらくしてマルぼんが墓参りに来ると、ヒロシの埋めた場所に花がたくさん咲いていました。ヒロシを糧にして咲いた花々です。そう、ヒロシの命は失われたのではなかったのです。自然の一部として、地球の一部として、今も生き続けているのです。
マルぼんは、ヒロシの命を地球の一部という壮大なレベルにまでグレードアップさせて保証してくれた『絶対保証書(上)』の効果は絶大だと思いました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます