お正月だよマルぼんと暮らす 解決編

 というわけで、ヒロシは魔法少女ムリぼんと暮らすことになったのでした。なんというか、アレですね。魔法少女と同居なんて、ヒロシも本格的に創作作品の主人公ってカンジ?



ムリぼん「ボクの魔法で、ヒロシお兄ちゃんを幸せにしちゃうよっ。なんでも言ってねっ」



ヒロシ「うわー。一人称が『ボク』とか、妹でもなんでもない赤の他人『お兄ちゃん』と呼ばれるとか、語尾につく『っ』とか、リアルで言われると、嘘みたいに殺意が芽生える」



 憧れの創作作品の世界に少し幻滅しつつも、ヒロシはムリぼんに色々お願いしてみることにしました。なんとなく、前に一緒に住んでいたヤツ(名前失念)よりはマシそうだし。



ヒロシ「ねえムリぼん。結論から先に言うと、僕は社会的に成功した立場になりたいんだ。それで毎日をおもしろおかしく暮らしたい。光の速さで社会的勝者になれる魔法をかけておくれよ」



ムリぼん「ふむふむ」



ヒロシ「『ふむふむ』。言うに事欠いて『ふむふむ』。うわー。こいつ殺してえ。



ムリぼん「ヒロシおにいちゃんの腐った欲望を満たすのにピッタリの魔法さん、確かに存在するよっ。今から呪文を詠唱して、魔法をかけてみるねっ」



「さっきは魔法に『さん』をつけてなかったじゃん。なに、計算? 計算のつもり?」とかヒロシが思っていると、ムリぼんはどこからともなく琵琶を取り出してきました。



ムリぼん「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」



 それまでアイドル声優みたいに甘ったるいものだったムリぼんの声が、突然しわがれた老人の声にかわりました。



ヒロシ「なんで『平家物語』?」



ムリぼん「ムリぼんのジョブは琵琶法師なのっ。だから、魔法を使うときに『平家物語』さんを最初から最後まで歌いきらなきゃならないのっ。ああん。また最初から…祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり…」



ヒロシ「うわ! 僕の目の前に、突如として大量の札束が出現したぞ!」



ムリぼん「ムリぼんが魔法さんで出したお金さんだよっ。全部で4兆5600円さんもあるのっ。人生の勝利者さんって言えば、やっぱりお金持ちさんだもんねっ」



ヒロシ「紙幣番号も、一枚づつ異なっている! すげえや。無駄飯喰らいの先代(マルなんとか)とは、神と愚かな人間どもくらいの差があるよ。ありがとう!」



ムリぼん「で、ヒロシお兄ちゃんは、人生の勝利者さんになって、これからどうするの?」



ヒロシ「へ?」



ムリぼん「なにか目標さんがあって、人生の勝利者さんになりたかったんでしょ?」



ヒロシ「そ、それはそうさ…よし、とりあえず、欲しかった漫画やゲームを大人買いだ!…どうよ!?」



ムリぼん「まだ、ほとんど残っているねっ。4兆円さん。もしかして、もうオシマイさん? 人生の勝利者さんの夢さんって、そこらのバーチャル少女に思いを馳せる青少年と同じレベルのものだったの?」




ヒロシ「いや、その」



ムリぼん「ムリぼん、ヒロシお兄ちゃんの豪気なところをみたいなっ」



ヒロシ「う、あ、うう…(ぶちっ)」



ムリぼん「ヒロシお兄ちゃん?」



ヒロシ「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」



ムリぼん「ダメだよっ! ばら撒いた4兆円さんに灯油さんなんて撒いたらダメだよっ! 火さんでもついたら、築15年の家さんが悲惨なことに…って、ああー! 燃えるぅー!!」



ヒロシ「あひゃひゃひゃひゃひゃ! 火葬だぁ! 4兆円の火葬だぁ! あひゃひゃひゃひゃひゃ!」



ムリぼん「ああ、なんということにっ」



???「君には失望したよ、ムリぼん」



ムリぼん「貴様はっ」



マルぼん「俺さ」



ムリぼん「貴様、マルぼんっ。廃棄所分されて、その遺骸は刑務所の囚人の服にリサイクルされた筈っ」



マルぼん「脳死寸前だったところを助けられたので無問題。それよりも、君はヒロシのことをなんにもわかっていない」



ムリぼん「なんだと」



マルぼん「たとえば、昨日から大工さんになった若者に『原子力発電所を建築しろ』と言ってもムリな話。同じように、100円持っているだけで世界の王になったような気分になる小心者のヒロシに4兆円も与えるなんて愚の骨頂。金額の重みに耐えかねて発狂するのは、火を見るよりもあきらかだ。でも、大工さんは経験を積めば原発だろうが核ミサイルだろうが作れるようになる。ヒロシも、いままでたくさんお金を使っていれば…」



ムリぼん「4兆円を有効に使用できた…つまり、ヒロシには経験が不足していたと」



マルぼん「そういうこと」



ムリぼん「なら、魔法の力でヒロシに経験を」



マルぼん「やめとけやめとけ。そんなの無駄の無駄無駄。エロゲーギャルゲーでたくさんのヒロインと恋仲になった青年が、現実では、まるで前世からの因縁でもあるかのように色恋沙汰に縁がないのと同じだ」



ムリぼん「マルぼんには、ヒロシに経験をつませる秘策があると?」



マルぼん「あるさ。機密道具に不可能はそれほどないっ。さぁ、いまお見せしよう。ヒロシに経験をつませることができる機密道具!」



ムリぼん「これは…血!? 真空パックに入れて保存してある血液!」



マルぼん「これこそ機密道具『経験血』。『経験血』はクロウシローという特殊な薬品を混ぜた血液なんだ。この血液を輸血された人は、血の持ち主のいままで体験したこと経験したことを、ものすごい勢いで疑似体験できる。

この『経験血』は、未来の世界の億万長者ジッタクニー・プール氏のものなんだ」



ムリぼん「ジッタクニー・プール氏といえば、裸一貫で億万長者にまで上り詰めた今太閤。氏の『経験血』の輸血すれば、ヒロシも上手な金の使い方ができるというわけね。でも、よく氏の血液を入手できたんだね」



マルぼん「氏は、色々な病気で3年くらいまえからこん睡状態。楽勝だったよ」



ムリぼん「病気…『経験血』の安全性はいかがなものなの?」



マルぼん「よし、さっそくヒロシに『経験血』を輸血しよう!」



ムリぼん「黙殺!?」



マルぼん「うい。輸血完了。これでヒロシは、一代で億万長者になった男の経験を持つ小学生(好みのタイプ・バーチャル)として生まれ変わった!」



ヒロシ「ん…」



ムリぼん「ヒロシお兄ちゃん、分かる? これ…4兆円さんだよっ」



ヒロシ「貯金して」



ムリぼん「おおっ。有効な活用法さん!」



ヒロシ「あ、その前に一億円でロドリゲス石油の幹部連中の買収を」



ムリぼん「ロドリゲス石油?」



マルぼん「ジッタクニー・プール氏の経営する石油会社のライバル会社だね」



ヒロシ「う、あ…そこにいるのはニワニー…」 



マルぼん「ニワニーというのは、先ごろなくなった氏の長男だ」



ヒロシ「父を許してくれ。おまえが…おまえがポリエチレンの口車にのるから…許してくれ」



マルぼん「氏の右腕と言われたポリエチレンは会社のっとりを企てていたらしい。ニワニーはこのポリエチレンに煽られて、氏に退陣要求を突きつけたんだ。その直後、急にニワニーは亡くなったから、なにかあるんじゃないかと言われていたんだけど…やっぱり、父である氏の差し金で…」



ムリぼん「どうでもいいけど、なんでそんなにジッタクニー・プール氏に詳しいの?」



マルぼん「よく聞いてくれました。実はマルぼんの両親は、氏の…」



ムリぼん「とてもうざそうな設定なので、超却下」



ヒロシ「うう…許してくれ。子供が乗っているなんて知らなかったんだぁ。直接手を下したのはワシじゃない…うう。ううう…」



ムリぼん「うなされているね」



マルぼん「財を成すには、闇に手をそめることもあっただろう。その時の経験を思い出して、罪の意識に悩まされているんだよ」



ヒロシ「くるな…くるな…くるな…くる…な…ブチッ」 



ムリぼん「ヒロシお兄ちゃん?」



ヒロシ「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」



ムリぼん「ダメだよっ! ばら撒いた4兆円さんに灯油さんなんて撒いたらダメだよっ! 火さんでもついたら、築15年の家さんが悲惨なことに…って、ああー! 燃えるぅー!!」  




ヒロシ「あひゃひゃひゃひゃひゃ! 火葬だぁ! 4兆円の火葬だぁ! あひゃひゃひゃひゃひゃ!

 皆さん、今から謝罪しに参りますぅ!」



ムリぼん「無理だね」 



マルぼん「超ムリ」


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