お正月だよマルぼんと暮らす 推理編

 マルぼんが得意先まわりを終えて帰宅すると、ヒロシが手紙を書いていました。



ヒロシ「『拝啓、微笑郵便局様。現在保管中の手紙やはがきを配達したら、色々としちゃいます』っと」



マルぼん「ちょっとちょっと。なんで郵便局への脅迫状など執筆しているのさ」



ヒロシ「ルナちゃんに送った年賀状の文面がさ、今考えたら人生の汚点になるくらいとんでもない代物だったの。恥を隠すためには、命(他人の)をも厭わないのが日本男児だろ」



マルぼん「なら、脅迫状なんてアグレッシブな方法をとらずにさ、マルぼんに『機密道具貸してん』とでも言ってくれればいいのに。はい、『いつでもだれでもお気軽に回収ホール』。このホールは世界中のありとあらゆるところに繋がっていて、手を突っ込めば、いつでもだれでもお気軽に好きなものが回収ができる」



ヒロシ「そいつはいいや。よし、さっそく。…OK! ルナちゃんへの年賀状を無事回収できた」



マルぼん「えっと『僕と結婚しなければ、お前の年老いた両親が死ぬ。めったざしにされて!』。たしかに人生の汚点レベルの文面だね…」



ヒロシ「だろ? 思い出すたび赤面さ。よし。さっそく書き直そう」



 ヒロシは、満面の笑みを浮かべながら年賀状を書き直しました。



『ルナちゃんへ。僕と結婚しなければ、君の年老いた両親と愛犬を死なせた後、あなたの名前を叫びながら自決します。いやなら結婚しろ。これは命令だ』



ヒロシ「よし、書き直し完了。どう? さっきとは比べものにならないくらい、ルナちゃんへの想いが詰まっているだろ?」



 マルぼんは即答を控えました。



ヒロシ「ふと思いついたんだけど、『いつでもだれでもお気軽に回収ホール』で商売できねえかな。僕みたいに失敗作を回収したい人、けっこういると思うんだ」



マルぼん「そうだね。今日の晩飯代にこまるくらい困窮しているマルぼんと君だから、さっそく商売を始めてみよう」



 ということで、マルぼんとヒロシは『なんでもサルベージ社』を設立。悩める人のために活動を開始したのです。客は金歯に頭を下げ、たくさん紹介していただきました。 



発電所の人「サルベージおねがいします」



ヒロシ「はいはい。で、モノはなんでしょう」



発電所の人「ドラム缶(中身入り)が数百本です。上司に言われてやったものの、やっぱ貯水池に捨てたのはまずいと思って」




暴力で色々する人「サルベージおねがいします」



ヒロシ「はいはい。で、モノはなんでしょう」



暴力で色々する人「ドラム缶(中身入り)です。若頭に言われて埋めたものの、やっぱ沈めたほうが見つかりにくいと思って」




医者「サルベージおねがいします。いや、上司が『絶対安全だから』っていうんで仕方なく使ったんですよ。今頃になって『色々やばい』とか言われても、ねえ」




 人間社会の黒いところばかり見る羽目になったので、辞めました。



マルぼん「しかしまぁ、今回のオチはよめたね」



ヒロシ「読めたって…どんなだよ?」



マルぼん「ママさんが来て『ヒロシは育て方を失敗したから回収しますう』とか、そんなカンジのオチ」



ヒロシ「そんな、訴えたら勝てるようなオチ、ごめんこうむるよ」



ママさん「ねえ」



マルぼん「ほらきた!」



ママさん「ちょっと買い物へ行ってきてくれない? タバ子とシン奈の離乳食が切れていて」



マルぼん「え」



ヒロシ「ぷ。マルぼんの予想おおはずれ。最近、調子悪いねえ。買い物は僕が行くから、養生しなよ。じゃ、行ってきますー」



マルぼん「おかしいなあ。マルぼんの予想が外れるなんて」



認識番号JHAS37564「よお。ひさしぶり」



マルぼん「あ、ヒロシの子孫であり、マルぼんの真の持ち主である認識番号JHAS37564!」



認識番号JHAS37564「親切丁寧ななキャラクター説明ありがとう」



マルぼん「どうしたの? 君は歴史に残る極悪人・大沼ヒロシの子孫として、『主食は年寄りの足の裏の皮』と決め付けられるなど人間として扱われず、どこへ行くにも監視がついていてるほど行動を制限されているはず。

よくこの時代に来られたね」



認識番号JHAS37564「実はだな、マルぼんを買った電気店から連絡があったんだよ。『マルぼんシリーズには、開発段階で致命的なミスがありました。そのうち近くにいる人に色々おこります』って」



マルぼん「…よ、ようするに」



認識番号JHAS37564「マルぼんシリーズは全部回収だとさ」



マルぼん「回収してどうなるの? ねえ、回収してどうなるのー!?」



認識番号JHAS37564「代わりにさ、最新タイプのお世話生物がもらえるんだ。安心して眠ってくれよ。あ、メーカーさんこちらです」



マルぼん「たぁーすぅーけぇーてぇー!」




ヒロシ「ただいまぁ。マルぼん、具合はどう…」



ムリぼん「ヒロシおにいちゃん、おかえり!」



ヒロシ「だれ!?」



 マルぼんが廃棄処分され、その代わりにやってきたムリぼんはなんと魔法少女でした。次回から「ムリぼんと暮らす」が始まります。



 人生の落伍者への就職が内定しているヒロシくんの未来を救うため、魔法でナウマン象を蛆虫に変えたり、魔法で金歯を蛆虫に変えたり、魔法でルナちゃんを蛆虫を変えたり、大脳だけはスルーしたり、好物が黒猫の生き血だったりと、八面六臂の活躍の予定です。







次回以降のサブタイトル



第一話「魔法の怪生物登場」



第二話「いのちを売ってさらし首」



第三話「ルナちゃんの、耳」



第四話「もしも部屋の壁にある、人の顔に見えなくもないシミが『お兄ちゃん、だーいすきっ!』と言い出したら」



第五話「あの人美形だから、ストーカーじゃなくて純愛」



第六話「ドキッ!? ライバルは出入国管理局」



第七話「しつけですって。車に放置していたのもしつけですって」



第八話「地獄法要極楽法事。死を呼ぶ快楽七回忌」

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