潔癖症ちゃん

 マルぼんが家に帰ってみると、主であるヒロシがいない部屋で白装束を来た一団が、ガイガーカウンターみたいなのを使ってなにかを調査していました。



「何用ですか?」とマルぼんが尋ねてみると、「この場所から、ラジオを通して毒電波を送るヤツがいる」との返答。佃煮にするほどいる人々による佃煮にするほどありがちな言葉だったので、マルぼんは無言で彼らを追い出しました。



 それでも白装束ズはしつこく「脳が溶ける」だの「貴様、来世はハエ!」だの言ってきたのでマルぼんは「主に精神面の病気を治すことが目的の、人里離れた山奥にしかない施設(緑色の救急車を多用)」に通報し、マルぼんは静かな生活を取り戻したのでした。



 いざ平安を取り戻してみると、マルぼんは部屋が散らかっていることに気がつきました。ヒロシは買ってきたものはそこらに置きっぱなしにし、ゴミも散らかし放題のダメ人間なのです。底が抜けて1階の部屋にいるママさんが圧死でもしたらやっかいと思ったマルぼんは、部屋の片づけを開始。



 ある程度片付けると、マルぼんはあるものを発見しました。半年前に使用して以来、なくしたとばかり思っていた機密道具『特定の団体に毒電波を送って脳を溶かしたりする機(スイッチ入ったまま)』でした。



 しばらくするとヒロシが帰ってきました。マルぼんは『特定の団体に毒電波を送って脳を溶かしたりする機』を速攻で廃棄し、「貴様のせいで罪もない自己啓発セミナーの皆さんが白い施設おくりだ!」とヒロシを殴り「これからは部屋を散らかさない」ことを約束させたのでした。




 マルぼんが「部屋を綺麗にして」と口をすっぱくして言ってもヒロシは「汚くしまくっていたら科学変化とか起こって、この部屋から新たな知的生命体とか誕生しそうじゃん。僕は新しいアダムとイヴに知恵の実を食べるように強要したいんだ!」と聞く耳を持ってくれません。さらには掃除などほったらかしにして外へ遊びに行こうとする始末。



 そこでマルぼんは『潔癖SHOW!』という機密道具を用意しました。これはとても小さな舞台型の機密道具で、この舞台で繰り広げられるロボットたちのショーを観た人は、綺麗好きになってしまうのです。



 題目は上演ごとに代わり、今回は『そしてトンキーも死んだ(かわいそうな象)』です。マルぼんはいやがるヒロシを柱にくくりつけて無理矢理ショーを観させました。



役者「……トンキーは私の姿を見ると、ふらつきながら前足を上げました。芸をしようとしているのです。芸をすれば、いつものように餌をもらえると思っているのです」


ヒロシ「トンキー!トンキィィィィィィィィィィィ!」



 ショー1回だけでは効果が薄いと思ったマルぼんは、続いて上演された『保健所に連れて行かれた犬や猫がどうなるか知っていますか?(動物愛護団体原案)』『寸劇・黒い雨』など30種類ほどのショーをヒロシに見せました。



 そして、数時間後。ヒロシは立派な綺麗好きへと変貌したのです!。



ヒロシ「汚い…人間は汚い。いやだ…人がいっぱいいる外なんて…いやだ…」

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 こうしてヒロシは遊びに行くのを取り止めてくれたのでした。掃除などせず、部屋の片隅で震えているだけなのが難点ですが。



 その後、『潔癖SHOW!』の効果でヒロシはキ印がつくほど綺麗好きとなり、色々と問題が起こったりしましたが、マルぼんのカウンセリングでなんとか持ち直したのでした。



ヒロシ「やっとこさ部屋が綺麗になったよ」



今や普通の綺麗好きになったヒロシは、1日かけて部屋を片付けたのです。



ヒロシ「次は家の前を掃除してくるね。あ、ホウキを用意しなくちゃ」



外掃除へと向かうヒロシを、マルぼんは頼もしく見つめるのでした。



 しばらくすると外から絹を裂くような女性の悲鳴。マルぼんが急いで外へ出てみると、ヒロシが包丁片手に大暴れ。



ヒロシ「掃除だ。このホウキで、ゴミ掃除だ!」



マルぼん「ヒロシ! それ、包丁!」



ヒロシ「違う! ホウキだ! 人間という名のゴミどもを掃除する立派なホウキだー!」



 マルぼんのカウンセリングで、ヒロシは最悪の方向へ立ち直ってしまったようです。とりあえずマルぼんは、「落ちていた石」という名前のホウキででヒロシの意識を掃除(特に頭部を念入りに)し、その体を家という名前のゴミ箱へぶち込んだのでした。



 マルぼんの機転で、「意味の分からない事を叫んで通行人に襲いかかり、警察官に取り押さえられた少年A」にならずに済んだヒロシ。マルぼんの薬物や機械を利用した再カウンセリングで精神は落ち着いていますが、なにかあるとまたおかしくなりそうなので、気が抜けません。



ヒロシ「今日は『週刊子供自身』の発売日だよっ!」



薬の表情でニタニタ笑っていた(目は笑っていない)ヒロシが急に叫びました。『週刊子供自身』は、「穀潰し天使」「あの子は蛆虫くん」などの連載漫画や、子供向け芸能ゴシップ記事で人気の雑誌です。



ヒロシ「この前叔父さんにもらったお小遣いをお母さんに預けてあるんだ。返してもらって買いに行こうよ」



『週刊子供自身』はマルぼんも愛読書ですのでヒロシの案に大賛成。2人でママさんのところへ向かったのですが、ヒロシが預けたお小遣いは、ママさんの化粧品へと化けていました。




ママさん「『ママが綺麗になる→金持ちの男性に見初められる→金持ちの新しいパパ誕生』というコンボが炸裂して、ヒロシのためになるのよ」



かなり無理のあることを言うママさん。マルぼんはヒロシが怒りに震えていることに気がつきました。「お母さんは汚いから、この世から掃除!」とか言い出さないから心配だったのですが、その不安は的中。ヒロシはどこからか包丁を持ち出していたのです。



「汚いものは掃除だ!」と包丁を振り上げるヒロシ。もうダメでヤンス!とマルぼんが思った瞬間、なんとヒロシは自分の腹を突き刺したのです。



ヒロシ「こ、こんな汚いおかあさんの血を引いているなんて…耐えられない」



マルぼんの胸に抱かれたヒロシは「これでいい。僕は綺麗なままだ」と呟くと、そのまま息を引き取りました。



マルぼん「馬鹿野郎、自分で自分の命を掃除するなんて、汚い! 最高に汚すぎるよ、ヒロシ!」



そんな感じで物言わぬヒロシに語りかけながら、マルぼんは「我ながら綺麗にまとまったな」と笑みを隠せないのでした。

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