目に映るものすべては

「最近、みんな俺様に優しくないんだ」とか言いながら、ナウマン象がマルぼんを訪ねてきました。



 いつも「オマエのものは命すら俺のもの、俺のものはあのお方のもの」と他人のものを容赦なく奪い取り、既に両手では数え切れないほどの尊い命を奪っている腐れ外道がなにを言っているのか、とマルぼんは思ったのですが、とりあえずナウマン象の話を聞いてやることにしました。



「やさしくないんだ…みんな、俺をみても視線をそらすし…家族も厄介モノでもみるような顔で俺をみるし」と、ハンカチを噛み締めながらナウマン象。



 いつも「刑務所のなかって食うに困ることないじゃん!」と言って犯罪を繰り返し、家族よりも保護監察官と一緒にいる時間のほうが長い鬼畜が何を言っているのか、とマルぼんは思ったのですが、とりあえず機密道具を出してやることにしました。



『ぬく銛』。銛の形をした機密道具で刺された人は、人様の優しさに満ち溢れたぬくもりにその身を包まれます。刺さった傷が深ければ深いほど、より深い優しさに包まれるのです。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」



 テストとしてナウマン象に『ぬく銛』で刺されたヒロシの悲鳴が、あたりに響き渡りました。するとどうでしょう。血を撒いてのたうちまわるヒロシの姿が、とても愛しく感じられるではありませんか。気づくとマルぼんとナウマン象は、ヒロシを抱きしめ、その傷口を舐めていました。そう。生れたばかりの子犬の体を舐める親犬のように……



 絶大な効果を持つ『ぬく銛』を手に、ナウマン象はスキップまじりで帰っていきました。


 

数日後。



「『ぬく銛』の効果はスゲエな! 家族も友達もみんな俺にやさしくなったんだ!」ナウマン象がやってきたので、マルぼんとヒロシは黙って話を聞いてあげました。



「歩いているだけでさ、すれ違うヤツが『出歩いて大丈夫なの?』『無理するなよ』とか心配してくれるんだよ。ちょっと照れくさいけど、人のぬくもりっていいもんだよな」



「母ちゃんもいつもよりこづかいくれるし。父ちゃんは映画に連れて行ってくれるらしいんだ!」息を荒げて語るナウマン象。無理をしていないかマルぼんは心配です。



「それでさ、あれ…」



 話している最中、急によろめくナウマン象。マルぼんとヒロシは咄嗟にナウマン象にかけより、「大丈夫!?」と抱き起こしました。



「悪い悪い。なんか最近、やたらと立ちくらみがするんだよな。季節の変わり目だからかな。ありがとう。じゃあ、俺、これから父ちゃんと映画へ行くから」



 ナウマン象は帰っていきました。



 「ナウマン象はもう長くない」という電話が親御さんから来たのは、数日前。このことはいつものメンバーをはじめ、ナウマン象本人以外みんなが知っています。残された人生を気持ちよく過ごしてもらうため、みんなで相談し、これからはナウマン象に温かくやさしく接することになったのです。



『ぬく銛』の効果は絶大なようです。

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