着られるな、着ろ!
最近のヒロシの望みは、服を着ることです。
微笑町の住民は、A~Zまでのランクに分かれていて、下級ランクの住民は『ひえと粟以外食べたら死刑』『上位ランクの住民と勝手に話したら死刑』という厳しい戒律があり、さらに最下級ランクだと『布の服を着たら死刑』ということになります。
ヒロシは、今この『布の服を着るの禁止』のランクなんです。
元々は、町の実力者である金歯の学友としてそれなりのランクだったのですが、大沼家の馬鹿親父が一揆に加担して死罪となり、その余波でランク落ちしてしまったのです。
ヒロシが服を着ない状態は結構続いていて、なんか最近は気持ちよくなったりしているのですが、将来、『若い頃は生まれたままの姿ですごしていました』とか履歴書に書けませんし、なんとか服を着たくなったのです。着たい着たい。どんなものでもいいから着たい。で、マルぼんに相談しました。
マルぼん「布とかがNGなら、紙の服を作ればいいんだ」
さすがマルぼん。『紙でどんなものでも作れるキット』を用意してくれました。このキットは、紙でどんなものでも作ることができ、作られたものは本物以上に頑丈なのです。
ヒロシ「すごいや。本物以上の着心地の服だよー。ありがとう、マルぼんー」
マルぼん「感謝しろよ。そいつは高価な機密道具なのさ」
ヒロシ「うん、うん!」
マルぼん「とりあえず、今日の晩のおかず、全部よこせ」
ヒロシ「……」
マルぼん「次の小遣いも全部よこせ」
ヒロシ「……」
なんだなんだ。なんなんだ、マルぼん。なんでこんなに、ヒロシに恩を着せようとするんだ。
なやめるヒロシは、友人に相談することに、町内某飲食店。
ナウマン象「へえ。それじゃあ、マルぼんのヤツ、そんなに恩を着せてくるのか」
ヒロシ「そうなんだ。家がテロリストに占拠されたときも僕をテロリストのボスに差し出して一人だけ助かったし、肝臓移植が必要なときも僕の肝臓を強引に奪い取るし。本当に腹が立つよ……」
ナウマン象「大変だなぁ。おし。この店の勘定は俺にまかせとけ。好きなだけ食えよ。あ、俺、今から仕事だから、帰るけどな」
ヒロシ「ありがとう。君こそ親友だ」
ナウマン象の配慮でお腹いっぱい米の飯を食えた僕は、ほろ酔い気分で帰宅しました。家では死んでいました。マルぼんが。
ヒロシ「マルぼんー!?」
ナウマン象「お巡りさん、あいつが殺したんです。散々、マルぼんの悪口とか言っていました。あいつに間違いないですー!!」
ポリスメン「逮捕だー!!」
ヒロシ「ち、ちがう。濡れ衣…濡れ衣を着せるなー!!」
そのとき僕は思いました。この前「なんでもいいから着たい。着れるなら、人間としての尊厳を捨ててもいい」とか思わなければ、恩やら濡れ衣やらを着る羽目にならなかったのではないか。
ヒロシ「もう、なにも着たくないー!!」
裁判官「きみのような醜く汚らわしいクソのごときやつは死刑!!」
ヒロシ「ワ! 歯にモノ着せぬ言い方!!」
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