大沼ヒロシは説教がしたい! の巻

 大沼ヒロシ(団塊の世代)は説教がしたい! 若いやつに自分の価値観を押し付けて説教がしたい! マルぼんに出してもらった「説教すると、された相手が必ず真に受ける」という機密道具を使い、準備も万端だ。そんなわけで、平日の昼間から公園でぼーっとしている若者に説教を始めた。



「おまえは平日の昼間からなにをしているんだ。働いていないのか」



「就職はしています。でもその仕事で僕のやることはまだないんですよ。えらい人にやれと言われるまでは、こうしてじっと待機なのです。その時が来るのをただ待つのみなのです」



「なにを言っているかわからんが、仕事は自分で待っているだけではだめだぞ。偉い人に命じられるまにやるんだ。指示待ち人間になるな。自分からやりにいけ。やれと言われる前にやる。偉い人だって、そういう部下を評価するんだ。ワシらはそうやってきた。そして出世して、結婚して、家も買ったし車も買った。仕事は言われる前にやるんだ!」



「はい!」



 道具の力でヒロシの説教を真に受けた若者は、公園を飛び出していった。しばらくすると、パトカーのサイレンが。家に帰ると、金歯が通り魔に襲われて亡くなったという連絡が。犯人は逃走中だという。



 数日後、金歯の葬儀が盛大にとり行われた。葬儀後、駅前に作られていた金歯専用の巨大な墓(ピラミッド状)に埋葬するために棺が運ばれたのだが、一緒に埋葬される数々の宝物を運ぶ者や、殉死して共に埋葬される予定の者たちも一緒だったので、まるでパレードにようになっていた。



 微笑町では、町の権力者である金歯一族の誰かが亡くなった際、死後の世界で仕えるために殉死するという仕事がある。毎月給料はもらえるし対象の金歯一族が死ぬまではめちゃ自由なので、進んで我が子をこの仕事につかせる親も多いのだ。



 金歯埋葬パレードを見に行ったヒロシは、金歯陵に向かう殉死者の中にあの若者がいるのを見つけた。ヒロシに気付いた若者は「やりましたよ!」みたいな顔して、ウインクしてきた。



 金歯を殺した犯人はまだ捕まっていない。



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