勇者を呼ぶならニッポン産

 数十年の一度くらいのペースで魔王がでる。その度に、世界中から適正のあるものを見つけだし、勇者として送り出す。この適正のあるものというのがなかなか見つからない。捜索には莫大な費用と時間がかかり、その際、魔王の侵攻は止まることなく進み、大きな被害がでる。送り出した勇者には、金に糸目をつけずに援助するのが決まりだ。それでも勇者が敗れてしまうことがある。そしたらもう一度、勇者を探し出すのだ。時間と金と国民の命の無駄である。ここ数年、幸いななことに魔王がでていないが、いつ出現してもおかしくはなく、国王である私の悩みの種である。



 最近、私達とは違う世界に住む友人と話をした。友人の世界も魔王がたびたびでるのだという。勇者探し、大変だよねという話をしたらところ、友人はひどく驚いた様子だった。



「今時、自前で勇者を用意しているの!? 今は召喚の時代だよ」



 聞くところによると、ニッポンという世界があって、そこの世界に住む者はそろいもそろって勇者の適正者だらけ。魔王の現れる世界の大半が、ニッポンから適正者を召喚して勇者とするのだという。



「ニッポン産の勇者は、自分の世界とは比較にならないくらい強い。魔王なんざあっという間に討伐してくれるよ」



「そんなにいいのなら、次に魔王が現れた時、我々もニッポンから勇者を召喚したい。でも、方法がわからないんだ」



「魔王のいる世界を渡り歩いて、ニッポンから勇者を召喚してくれる流しの召喚士がいるんだよ。とびきりの腕前で、金はかかるけど、希望に沿った勇者を召喚してくれるんだ。今度魔王が現れたら連絡してくれよ。紹介してやるから」



 その時はすぐに来た。魔王が現れたのだ。魔王自慢の配下であるドラゴンが、瞬く間に多くの町を滅ぼしていった。ドラゴンは口から吐き出す炎で多くの命を灰にしているという。自分の世界から勇者の適正者を探すヒマなどない。私は友人に連絡をとり、召喚士に来てもらうことにした。



「して、どのような勇者がご所望なのです」



「そうですね。ニッポンの中でも最も勇者としての素質があるものを希望します」



「なるほど。お代金はこれくらいかかりますが」



 召喚士が提示してきた額は、目の飛び出るような数字だった。しかし背に腹は代えられない。



「お支払いします」



「それだけでよろしいか。他に条件はありませんか。それなりのお値段はかかりますが、細かい条件をだしてくださっても結構ですよ」



「大丈夫です」



 これ以上の金は出せなかったというのが本音だ。



 代金を支払い終えると、召喚士はブツブツと呪文を唱え始めた。呪文が終わるとあたりが輝きだした。私は思わず目を閉じた。



「光が消えた時、あなたが望んだ『現在のニッポンでもっとも勇者の素質があるもの』が現れます。少し早いですが、次の予約がありますので、私はここで失礼します。こことは違う世界の空の下で、あなたの世界に平和が戻ることを祈っております」



 召喚士の気配が消えた。やがて光も消えて、現れたのは



「なんだ、赤ん坊じゃないか!」



 オギャーオギャーと泣いている赤ん坊。嫌な予感がした私は、赤ん坊に聖剣を近づけた。この聖剣は我が王家に伝わる秘宝。勇者の適正があるに近づけると、音が鳴る。その者の素質が高ければ高いほど、音はより大きくなる。



 聖剣から鳴った音は、これまでの人生で聞いたことのないほど大きかった。



 素質よりも年齢を指定するべきであったことに気付いたが後の祭りだった。もっとも勇者の素質のあるこの子が大きくなるのと、魔王が世界を滅ぼすの。どちらが先だろう。外からドラゴンの鳴き声がした。答えは案外早くでそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る