運ぶものは愛

ママさん「ヒロシ。隣町のおばさん(元女子プロレスラー)に借りてた、このコーナーポストを返さなきゃいけなくなったのー。ちょっとお願いねー」



ヒロシ「やだよ。僕は華も恥らう小学生だよ? コーナーポストなてん、運べやしないよ」



ママさん「運ばなきゃ、しつけと称して、しつけと称して……」



 近くにあった包丁に手を伸ばすママさん。



ヒロシ「わぁ、運びます。運びます!」


  

 こうしてヒロシは、コーナーポストを隣町に住むおばさんのところまで運ぶはめになりました。



ヒロシ「とほほほ。神も仏もないものか。コーナーポストなんて、とてもじゃないけど運べないよう」



マルぼん「でも、運ばなきゃ『しつけと称して』だろ」



ヒロシ「そうなんだよ。ううう。どうしよう。このままだと、『この傷ですか? こ、転んだだけなんです』と周囲に説明する日々が始まってしまうよ。」



マルぼん「『配達屋さんキャップ』。このキャップを誰でもいいからかぶせてみな」



ヒロシ「あ、ナウマン象が空を見上げ、せつない表情をして歩いているぞ。ちょうどいいや、えい!」



ナウマン象「ヒロシ、てめえ、なにかぶせやがった」



マルぼん「『このコーナーポストを、隣町に住むヒロシのおばさんのところまで運んで!』」



ナウマン象「はぁ? なんで俺が……って、はうあ!」



 ナウマン象、恍惚とした表情になりコーナーポストに抱きつきます。



ナウマン象「かわいい! かわいいいいい! なんて素敵なコーナーポスト! 性的すぎるぅ! 俺、こいつと添い遂げる!」



ナウマン象の母ちゃん「ナウマン象! なにしてんだい! また恥を晒すつもりなのかい! お止め!」



ナウマン象「たとえ母ちゃんでも、俺とこいつの恋を阻めない。さぁ、行こう、誰も邪魔しない恋の新世界へ!」



 ナウマン象は鉄柱コーナーポストをお姫様だっこすると、猛スピードで走り出しました。それを追いかけるナウマン象の母ちゃん。



マルぼん「追いかけよう。きっと隣町のおばさんの家の前まで行っているはずだから」



ヒロシ「どういうこと?」



マルぼん「『配達屋さんキャップ』は、かぶった人が配達屋さんになってしまう機密道具。キャップをかぶっている人に『××を○○まで運んで』と言えば、たとえ本人が嫌がっても『運ばなくてはいけない事態』が起こり、必ず運ぶことになるんだ」



 おばさんの家まで行くと、ナウマン象の母ちゃんが息子さんをちぎっては投げ、ちぎっては投げしていました。辺りはナウマン象の肉片と血で、スプラッターランド化しております。

その近くには、あのコーナーポストが放置されてました。騒ぎに気付いたおばさんが家から出てきて



おばさん「まぁ、わざわざ運んでくれたのね。ありがとう。これはお駄賃よ」



ヒロシ「やたー!」



マルぼん「よかったよかった。あ、そうだ。マルぼんはこの近くに住んでいる昔の彼女に会いに行くから、さきに帰っときなよ。じゃあね」



ヒロシ「さて帰るか。しかしここからだとバスを使わないと帰れないな。バス代もったいないし……そうだ!」



 ヒロシは、ナウマン象から回収した『配達屋さんキャップ』を、通行人の若者にかぶせました。



若者「な、なんだ」



ヒロシ「『大沼ヒロシを自宅まで運んでください』」



若者「はぁ? なんで俺がそんなことを」



 と、その時。



「暴れ牛だー! 暴れ牛の大群が、押し寄せくるぞー! 逃げろー」



ヒロシ「ぎゃー!」



 ヒロシは、暴れ牛の大群にのみこまれ、そして……



若者「あ、おい、大丈夫か少年! しっかりしろ、しっかり……」



 そして月日は流れ、ここは大沼宅。



マルぼん「ヒロシのやつ、いったいぜんたいどこへ行ったのやら」



若者「あの、ここは大沼さんのお宅でしょうか?」



 訪ねてきたのは若い男性。白い布で包まれた箱を抱えています。それから、彼はなぜか『配達屋さんキャップ』をかぶっていました。



マルぼん「そうですが、なにか」


 

 マルぼんの返事を聞くと、若者は「やっとみつけた」と呟くと、ボロボロと涙を流し始め、抱えていた箱に話しかけました。涙で顔をくしゃくしゃにしながら、話しかけました。



若者「ようやく、ようやく家に帰ることができたな、少年」



 マルぼんは、ヒロシもきちんと配達できた『配達屋さんキャップ』の効果は絶大だと思いました。

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