ノックは無用、いや必要

 ここは大沼宅ヒロシの部屋。ヒロシがムフフな絵の映し出されているパソコンのモニターを見つめて、恍惚とした表情を浮かべております。



ヒロシ「うふふふ。げふふふふふ」



 魅惑のエクスタシーワールドが展開されているわけですが、そんなパラダイスを打ち砕いたのが



ママさん「おやつよー」



 ノックもせずにヒロシの部屋に入ってきたママさんだったのです。



ママさん「ヒロくん、なんて破廉恥なものを見ているの! こんな鬼畜淫乱少年に育ってしまっては、先祖に申し訳ない! 一緒に死にませう!」



 こうして悲劇が起こりました。ヒロシの部屋は、血の海になっていたと、後世に伝わっております。そして数日後。そこには無事回復して部屋でギャルゲーをプレイしているヒロシの姿が。



ヒロシ「もうエロゲーはこりごりさ。酷い目にあったからね。これも母さんが部屋の扉をノックしてくれないからだよ」



 ママさんだけではなく、大沼家の人々は誰もノックをしません。パパさんも、ヒロシの妹も、ヒロシの姉も、ヒロシの弟も、ヒロシの兄も、ヒロシの叔母も、ヒロシの叔父も、大人も子供もおねーさんも。世間にはノックをしない人がたくさんおり、彼らの存在は時に悲劇を呼びます。ある男は、ノックしないで部屋に入ったばかりに義理の妹の着替えシーンを目撃し、そのイベントがフラグとなり、結局、望まぬ義妹エンドを迎えてしまいました。まさに悲劇。



マルぼん「『ノックお願いします札』。この札を貼ったドアは、訪れる人が必ずノックするようになるんだ」



ヒロシ「これさえあれば、もう、悲劇は起こらないね!」



マルぼん「念のため、部屋に鍵をかけられるようにしたし、これで完璧だ。キミのプライバシーはしっかり守られるよ」



 さっそく『ノックお願いします札』を自室の扉に貼るヒロシ。ついでに鍵もしめます。



マルぼん「うっ」



ヒロシ「どうしたのマルぼん」



マルぼん「いきなりだけど、マルぼんは300年に1度、無性に小学生の生き胆が食べたくなるんだ。じゅるじゅるじゅる」



ヒロシ「や、やだ。そんな肉食獣のような目で僕を見ないで。いつものように慈愛に満ちた、マザーテレサのような目をで、僕を見つめてよ」



マルぼん「いただきマンモス!」



ヒロシ「ぎゃああああああああ!」



 薄れいく意識の中、ヒロシは誰かがドアを叩く音を聞きました。「どうしたの、ヒロシ」「ここを開けるんだ」と、声もします。ヒロシの悲鳴を聞いて駆けつけた家族が、鍵を開けることができず、仕方ないのでドアを叩きながらヒロシを呼んでいる……ミステリーなんかによくあるシーンです。



ヒロシ(ノックだ。ノックしているんだ、アレだけノックをしなかった家族のみんなが! すごいや『ノックお願いします札』は)



 家族が必死でドアを叩く音を子守唄にして、ヒロシは満面の笑みを浮かべつつ、永遠の眠りについたのでした。マルぼんは、家族みんながヒロシの部屋のドアを必死でノックするようにした『ノックお願いします札』の効果は絶大だと思いました。完。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る