操縦士

 今の彼とは、学生時代に知り合った。



「夢は飛行機の操縦士になって、大空を自由に飛び回る事なんだ」



 と、自分の夢を子供のように語る純真さに惹かれ、その夢を応援したいと思った私は彼に告白。交際が始まった。付き合い初めて気づいたのだが、彼はなにも知らなかった。どうすれば操縦士になれるのかなんて、さっぱりわからないという。



 これではいけない。このままでは、この人は夢を実現することなんてできない。私がなんとかしてあげないと。そう考えた私は、飛行機の操縦士になる方法を調べた。



 操縦士になるためには資格が必要だったので、その資格について私が必死で勉強。コツからなにから学習し、彼に伝えた。私の指示通り勉強した彼は、見事資格を取得した。



 せっかく必要な資格を全て揃えたのだから、彼をパイロットにしてやりたいと考えた私は、航空会社のことをあれやこれやと調べて、入社のコツからエントリーシートの書き方からなにから調べ上げ、彼に伝えた。私の指示通り就職活動をした彼は、見事航空会社に入社した。



 入社してから人間関係で困らないようにと考えた私は、服装から口調から接し方から酒の席での付き合い方からなにからを徹底的に学んで、彼に伝えた。私の指示通り上司や同僚と付き合った彼は、職場での評判は上々になった。



 私の指示に従うことで、彼は充実した人生を送るようになったのだ。



 このころ、私は彼にプロポーズをした。彼の答えはもちろん「YES」。しかしこの幸せも長くは続かなかった。



 結婚してからしばらくして、いや、夫は、私が着るように指示した以外の服を着たり、香水をつけるようになったのだ。私が止めるように指示すると一時的には元の服に戻るのだが、しばらくするとまた変えてしまう。



 嫌な予感がした私は探偵を雇った。わけのわからない道具を使う、わけのわからない外見をした、わけのわからない生き物だったが、腕はよく、一か月程度で真相を調べ上げた。



探偵「旦那さんには愛人がいるようです。服や香水はその愛人に薦められたもののようですね。仕事のアドバイスなども受けているみたいです」



 支え続けた夫に裏切られた私のショックは大きかった。探偵の出した調査結果を突き付けて、私は夫を問い詰めた。夫は答えた。



「操縦士2人体制は、飛行機の世界の常識なんだぞ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る