怪談


金歯「そしたら赤ちゃんが一言いったのでおじゃる。『パパ、コンドハコロサナイデネ』って」


ナウマン象「ひえー」


ルナちゃん「なかなか怖い話ね」


 今日のヒロシども、季節外れの怪談大会です。部屋を暗くして、とっておきの怪談を披露しあっています。


金歯「さて、次はヒロシの番でおじゃるよ」


ナウマン象「おいヒロシ、おまえ怖い話なんてあるのかよう」


ルナちゃん「そうよそうよ。この前の話なんて、さっぱり怖くなかったわ。えっと、なんだったかしら。そうそう。人食いバクテリアの話だったわね。人の喉の辺りには、『人食いバクテリア』と呼ばれる菌がいて、普通は無害なんだけど、なにかのきっかけで活動を開始したら最後、体中の細胞という細胞が光の速さで侵食されて、どんどん腐っていくという話。バクテリアがどういうきっかけで動き出すのかは、現代医学をもってしても皆目検討がつかず、実質、不知の病であるという話。ここ数年、患者の数が急増しているという話。まったく怖くなかったわ」


金歯「そうでおじゃるそうでおじゃる」


ヒロシ(ふふん。まぁ、見てな、とっておきの怖い話を披露してやるよ)


 ヒロシ、余裕の笑み。実はマルぼんに機密道具をだしてもらっているのです。『怪談ドロップ』。このドロップを舐めてから口にした話は、たとえ何の変哲のない内容でも必ず怪談になってしまうのです。


ルナちゃん「あんなカスみたいな話をして、よく今回の怪談大会に顔を出せたものね。この生きる価値もないろくでなし!」


ヒロシ「たしかに僕は、前回大失態を犯しながらも、平然と今回の怪談大会に出席しました。でも、それは今回の話に自信があるからです。さて、ではさっそくはじめましょうか。これは、僕の友人の親戚の弟の恋人の不倫相手の上司の部下が本当に体験した話……」


 ヒロシが話し始めた矢先、突然、ルナちゃんの携帯電話が鳴りました。



ルナちゃん「はい、もしもし。ルナちゃんです。ああ、どうも……え?」



 ルナちゃんの顔色が変わりました。しばらく話していたかと思うと、ルナちゃん、ナウマン象と金歯を呼んで、なにやらこそこそと話をしています。ナウマン象と金歯の顔色も変わりました。


ヒロシ「おい、どうしたんだよ。話の続きをするぞい」


ナウマン象「おい、ヒロシ」


ヒロシ「うん?」


ルナちゃん「今の電話ね、マルぼんからだったんだけど……あのね」


ヒロシ「マルぼんから?」


金歯「ヒロシ……うぬは、1時間ほど前、病院で息をひきとったそうでおじゃる」


ヒロシ「はい?」


ナウマン象「今回の怪談大会にでるために道を歩いている時に」


ルナちゃん「トラックにはねられて」


金歯「搬送先の病院で」


ヒロシ「バカなこというな。なら、ここにいる僕はなんなんだよ。君たちが話をしている、この僕は」


ナウマン象「! ヒ、ヒロシ、自分の足元を見てみろ!」


 言われるままに自分の足元を見るヒロシ。愕然。ヒロシの足元は透けて見えていました。さらには影もなくなっています。鏡に体が映らなくなっています。頭上に金色のわっかが浮かんでいます。


ヒロシ「うわっ死んでるやん、僕!」


ルナちゃん「あなた、死んだことに気づいていなかったみたいね」


ナウマン象「普通気づくだろ、バカ」


ヒロシ「すると、僕は幽霊やったんか。就職とか結婚とかどうしよう。とほほ」


 どんな話でも怪談にしてしまう『怪談ドロップ』。その力は、ヒロシの『たしかに僕は、前回大失態を犯しながらも、平然と今回の怪談大会に出席しました。』という言葉を怪談にしてしまったのです。さっき死んだはずの人が幽霊としてやってきたという怪談に。

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