蟹よサラバ

 同じクラスのナウマン象にいじめられている。やばいことにすぐ近所に住んでいやがるので、放課後も安心できず、この世とおさらばしたい願望がでてきた今日この頃。でもひとりで逝くのはなんかこう色々無念残念。できることならやつも、ナウマン象も呼びたい。道連れにしたい。そんな気持ちでいたある日。近所で行われたフリーマーケットで、同じくクラスメイトのヒロシが出店しているのに出くわした。



ヒロシ「今は亡きマルぼんが遺した機密道具を売りさばいているんだ」



「じつはそろそろこの世とおさらばしたいんだけれど、いじめっ子のナウマン象に恨みとか晴らしたいんだよ。よい機密道具はあるかい」



ヒロシ「あることはあるけれど、自分からわざわざこの世とおさらばってのは関心しないな。もったいない」



「いいから。機密道具売ってくれよ」



ヒロシ「わかったよ。この『サラバ蟹』を使い、強い恨みを遺しつつこの世からおさらばすれば、永遠に成仏はできなくなるけれど必ず幽霊になれる。哀しいかな、なかなかの人気商品で、今日もそこそこ売れているんだ。寒い時代だと思わんかね」



「それ買うよ。幽霊になって、ナウマン象のところに化けてでてやる」



 そんなわけで、ヒロシから買った『サラバ蟹』を使って、この世からおさらばしてみると、見事に幽霊となっていた。幽霊のままナウマン象の家に行ってみて、一言「うらめしや」とか言ってみる。



ナウマン象「ひええ! 貴様、この世からおさらばしたはずでは! 俺を恨んで化けてでたか! 祟る気か―! 呪う気かー!!」



 想像以上に怯えやがるので、毎晩化けて出てみると、ナウマン象ときたら日に日に衰弱していくのでおもしろい。そしてある夜。いつも通りナウマン象の家に行ってみると、やつが、自分でこの世からおさらばしているのを発見したのである。かつてナウマン象だったものを眺めつつ、感慨にふける。



「ご丁寧に、俺と同じように蟹を使ってやがる。贖罪のつもりかな。まぁいいや。これからは、インスタ女子がもてる全てを注ぎ込んだ写真なんかに写りこんで台無しにするなどして、永遠に続く楽しい地縛霊ライフを満喫してやろう」



ナウマン象「そうはいかねえ」



「げぇ! ナウマン象!? なぜここに!?」


 

ナウマン象「なぜって、俺も幽霊になったんだよ。俺の遺体の近くに落ちている蟹をみてみろ」



「これは、よく見ると、よくよく見ると『サラバ蟹』じゃないか!」



ナウマン象「俺もヒロシから買っていたのさ。そして、俺を祟ったお前を恨みながらこの世からおさらばしたってわけだ。おい、なに怯えてやがるんだ。前みたいにいじめられると思ってるのか」



生きているいじめっ子と生きているいじめられっ子は、前者が強い。



生きているいじめっ子と幽霊になったいじめられっ子は、後者が強い。



幽霊になったいじめっ子と幽霊になったいじめられっ子は……



ナウマン象「まぁ御推察の通りなんだけどな! これからずっと、永遠に一緒なんだ。たっぷりじっくりゆっくり楽しませてもらうぜ」

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