マルぼんと暮らす
どぶろく
第1話 未来の国から。わざわざ。呼んでもないのに……
日本のみなさん、ボンジュール。僕の名前は大沼ヒロシ。
ありふれた普通の町「微笑町」で、ありふれた家庭に生まれ、ありふれた人生を歩んでいくであろう、ありふれた男子小学生です。いや、ありふれていたのも今は昔。ある日を境に、僕の人生はありふれないものとなったのです。
ある日曜日。いつものように、ネットで未解決事件や海外のシリアルキラーの記事を読んでいたときのこと。机の引出しの中から「俺は未来からきたアンタの子孫だ」と言い張るチンピラ風の若者と、丸くて臭くてべとべとした、なんだかよくわからないグロい生物が、突然でてきたのです。
チンピラ風情の話によると、数年後の僕はとてつもない事件を引き起こすらしいのです。
「自称子孫さんや。具体的にはどんなことをしでかすの。僕は」
「聞かせてやるよ、ご先祖さんや。多くの人の命をゴミのように」
「わかりました、はい。それ以上結構です、はい」
「助けをこう幼子の眼を、鋭利な」
「もうやーめーてー!」
しでかした僕自身は速攻で処刑されて海に散骨されて楽になりましたが、残された子孫たちは「先祖の報いペナルティ」が課せられ、「名前を許されず、認識番号で呼ばれる」「二足歩行を許されず、絶えず四つん這いで移動」「上流階級の人間の靴を舌で舐める以外の仕事に就くことができない」など、とにかくひどい毎日が続いているのだそうです。
「未来の世界では俺のように先祖の報いペナルティを課せられているヤツが多く、鬼のような社会問題と化しているんだ。で、政府がそんな人のために先祖更生プロジェクトを立ち上げた。便利な道具や不思議な力を持つ存在を、タイムマシンで先祖の元に送りつける。その共同生活の中で愛や友情の大切さ、命の尊さなどを先祖に学ばせて更生させ、後の悲劇を回避させるという寸法ってわけさ」
「そういえばこの前、同じ学校の無法者
がわけのわからない生き物と連れ立って歩いていのをみたような。もしかして、あれもそうだったのか」
「おそらくはそうだろうな。ご先祖さんは知らないだろが、すでにたくさんの未来の生き物がこの時代に派遣されているんだ。『便利な道具や不思議な力を持つ存在』の数は足りなくて、専門学校も作られているくらいなのさ。じゃ、話を本題に移そう。俺もそのプロジェクトの対象に選ばれたんだ。で、俺が連れてきたこいつが、あんたと暮らす『便利な道具や不思議な力を持つ存在』」
と、グロ生物を指さす子孫を名乗るチンピラ。
「名前は『マルぼん』。予算の都合で知能に問題ありで、半ば野生だが、便利な道具でアンタをサポートしてくれるからガンバレや。食事も、放っておけば蟻とか食べて命をつなぐから、そこいらも問題なしや。じゃあ、明るい未来を作ってくださいや」
僕の子孫を名乗るチンピラは、グロ生物ことマルぼんを残してとっとと帰ってしまいました。ほっておいても仕方ないので、僕はマルぼんに話しかけてみました。
「よ、よろしく」
「ぐげおけおおげおおんべーんべー!」
奇声をあげるマルぼん。醜い姿と醜い声に、僕は命の残酷さを垣間見たのでした。
「ヒロくん、誰かいるの?」
「だれかおるんか、ヒロシ」
騒ぎすぎたのでしょう。母と、その交際相手の村田が部屋の前までやってきてしまいました。これはマズイ。マズイぞ、これは」
僕の母である大沼うどん子は、近所のノラ猫多数にそれぞれ昔の彼氏の名前をつけて餌をやり近隣トラブルになるくらいの生き物好き。でも、体中に「人の顔にしかみえない」シミがあり、歩くたびにドロドロとした熱い液体をまきちらし、「思わず鼻を削ぎ落としたくなるような異臭」を放つマルぼんを、「喜んで! ママ! 新しい家族ができたよ!」なんて満面の笑みで紹介する勇気、残念だけど僕には微塵もありません。
かわいそうだけど、マルぼんには、しばらくの間息を殺して生活してもらうしかない。とりあえず、マルぼんの口(と思われるトコ)に猿轡、手足(と思われるトコ)をロープで縛り上げて、たまたま家にあった地下の座敷牢に放りこみました。
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