03 冒険者ギルド
「実は先程の依頼、複数討伐だったんです。あの後に父が来て、共闘したらどうだって」
「共闘!? その手があったか!」
一案件限りで手を組む制度だが、確かにそれならふたりで受注可能だ。報酬の取り分で揉めることが多いので敬遠する冒険者も多いが、彼女とふたりなら問題ないだろう。
「俺には別の目的もあるんだ。それを邪魔されなければ異論はない。となると、ナルシスだっけ? あんたはもういいぜ」
目的を果たせる上に美女との旅。この依頼で良い所を見せて、彼女も手に入れられたらいうことなしだ。意思疎通に多少の難はあるが、この天然さは見ているだけで愛らしい。
「リュシアンさん。まさか、この方とふたりきりで依頼をこなすつもりなんですか?」
「は? 何か問題でも?」
「問題だらけですよ。いかがわしい」
シャルロットの不満顔を見たセリーヌは、ふわりとした柔らかな笑みを向けてきた。
「不穏な動きがあれば、魔法で攻撃します」
目が全く笑っていない。困って顔を背けると、ナルシスが爽やかな笑みを見せていた。
「ご一同、これも何かの縁さ。彼の腕前では心許ないし、姫もギルドの仕組みには疎いようだ。今回は僕が協力しようじゃないか」
「結構です」
「なぜですか!? 僕では釣り合わないと? ちなみに、姫の冒険者ランクは?」
ナルシスは滑稽なほど
「ランクとはどういったものなのですか?」
「またまた、ご冗談を。腕輪を拝見させて頂いてもよろしいですか?」
乾いた笑みを浮かべるナルシスを見ながら、恐ろしい事実に気付いてしまった。
「いや、本気だ。加護の腕輪がない」
純白のコートの下へ隠しているのか。冒険者登録時にギルドから支給される腕輪がない。
目をしばたき、首を傾げるセリーヌ。ことごとく俺の想像を超えてくる奴だ。
「おまえなぁ……ギルドに登録しないと、そもそも依頼を受けられないんだぞ」
「そうなのですか?」
「突然やってきて、依頼を受注しようとしてたのかよ。わがまま王女の衝動買いか?」
「
頬を膨らませ、拳を上下へ揺する美女。動揺を隠そうとしているようにも見える。
「あれだけの魔法を使えるのに、ただの村人はねぇだろ……とりあえず、あんたにも譲れない事情があるのはわかった。このままギルドへ戻って、冒険者登録を済ませよう」
魔獣と戦う以上の疲労を感じながら、重い足を引きずるようにギルドを目指した。
☆☆☆
「では、こちらへお願いしますね」
ギルドの受付カウンターへ進むシャルロットとセリーヌを眺めながら、手近なソファへ腰を下ろした。なぜか、ナルシスまで後を付いて回っているのが気持ち悪い。
それにしても、相棒の小型竜はどこにいったのか。それほど遠くには行けないはずだ。好奇心を剥き出して道草をしているのだろう。
「しかしこれは、
シャツとミドルエプロンは魔獣の返り血で使い物にならない。武器屋の店主が剣の代金を免除してくれたことがせめてもの救いだ。
「こちらの書類へご記入をお願いしますね」
受付カウンターから登録証書を手に取るシャルロット。あれを書き込めば仮登録は完了。数時間で本登録も完了する。
それにしても、冒険者という職業にも無知というのが衝撃的だった。
冒険者の登録と解約、そして依頼の運営を行うのが冒険者ギルドだという基本を教えた。
魔獣討伐や天然資源の採掘、宝の探索などが
「確認ですけど、冒険者登録は十八歳以上が条件ですよ。問題ありませんか?」
シャルロットは問いかけながら、自分の小ぶりな胸とセリーヌの巨乳を見比べている。
悲しくなるだけだ。やめておけ。
「二十三になったばかりです」
「綺麗で羨ましい……健康な肉体なら誰でも登録可能ですけど、百日以上、依頼を消化せずにいると強制除名なので注意してくださいね。その際は解約金を五千ブラン頂きます」
セリーヌは黙ってひとつ頷いた。
「解約を無視すると、腕輪に仕込まれた位置情報を追跡して、この国の衛兵が取り立てに窺いますよ。最悪の場合は拘束もあり得ますから、くれぐれも気を付けてくださいね」
「承知しました」
「腕輪を紛失すると、再支給はランク別に一万ブランから。破損についても、故障品と引き換えに有償交換となります」
セリーヌが羊皮紙にペンを走らせると、隣へ立ったナルシスがそれを覗き込んだ。
「あなたのお名前は、セ……ん?」
「セリーヌ=オービニエと申します」
困ったように笑うシャルロットとナルシス。
何事かと用紙を覗いた俺まで、同じように固まってしまった。美女に思わぬ欠点が発覚。
字が汚くて読めない。
「まぁいいや……それより金はあるのか? 登録料の他に、依頼受注には報酬の五パーセントを参加料として前払いするんだ」
その金はギルドの運営資金となる。依頼中の死亡を考え、前払いが必須条件だ。
「姫。金策にお困りなら僕が立て替えよう。成功報酬から返して貰えれば構わないよ」
隣の付きまといが馴れ馴れしい。
「おまえは、いつまでいるつもりなんだ?」
「失礼だな君は。先程、共闘すると約束したばかりじゃないか」
「はっきり断られてたよな?」
途端、ナルシスの顔が強張った。
「馬鹿だな君は。姫なりの照れ隠しさ」
馬鹿はおまえだ。断言してもいい。
「ええっ!?」
シャルロットの悲鳴にカウンターを見ると、大小取り取りの宝石が転がっていた。
「ぶふぉっ!」
「うひえぇっ!?」
俺が吹き出すと同時に、ナルシスも叫んだ。
それもそのはず。これらの宝石を換金すれば、一生遊んで暮らせる大金が手に入る。
「足りませんか? この首飾りは長老から頂いた大切な品ですが、致し方ありませんね」
「ちょっと待て! 待て! 待て!」
胸の谷間へ手をかけるセリーヌを留め、カウンターへ散らばった宝石をかき集めた。
「すぐにしまえ。この小さい宝石ひとつで十分だ。シャルロット、すぐに換金してやれ」
「はっ、はいぃ!」
小走りで去る彼女を見送り、セリーヌの持っていた革袋へ宝石を片付けてゆく。
こんな大金を持っていると知れたら、いつ誰に襲われるかわからない。本当に、どこかのお姫様なのかもしれない。
「ナルシス。他言無用だからな」
「僕がお金に困った冒険者に見えるかい?」
憤慨して顔をしかめているが、こいつは金銭というより、付きまといが問題だ。
そうこうしている間に、たくさんの紙幣と腕輪を手にしたシャルロットが戻って来た。
「こちらがギルド加入の印である加護の腕輪です。取り付け方法は……」
「ちょっと待った」
シャルロットの言葉を慌てて遮った。
「依頼が控えてるから気を利かせてくれたんだろうけど、一度に覚えるのはきっと無理だ。続きは俺が、依頼開始までに教えるから」
俺はカウンターから腕輪を取り上げた。
「とりあえず、腕を伸ばしてみろ」
色白で華奢なセリーヌの腕へ、輪投げができそうな腕輪を通した。
彼女が魔導師を生業としていることが信じられない。魔導指南でもして優雅に過ごすのがお似合いだろう。
「だいぶ大きいようですが……」
不安そうな声を上げるが、二の腕まで通した所で腕輪に装飾された宝石を押す。腕輪は自動的に収縮し、彼女の腕へ固定された。
「凄いですね」
「外す時もその宝石を押すんだ。細かい説明は後。今はそれを付けているだけでいい」
「承知しました。ありがとうございます」
感動しているセリーヌから離れ、俺とナルシスも依頼受注の手続きへ向かった。
ランクEのセリーヌではこの依頼を受注できないが、パーティ内の最高ランク者が基準となるため、俺とナルシスがいれば問題ない。
改めて依頼を確認した。ルーヴと呼ばれる狼型魔獣がおよそ三十頭。囲まれないよう気を付ければ余裕の相手だ。
一頭の報酬が千ブラン。リーダーは二千ブランと書いてある。子分一頭の報酬でも、あの食堂の最安品なら一週間は食べられる。
「魔獣の活動時間は夜だ。街の中央から出る馬車は十六時が最終便だから遅れるなよ」
「馬車、ですか?」
「ん? どうやって行くつもりだったんだ?」
「僕は馬を持っているんだ。乗せていこう」
すかさずナルシスが割り込んできたが、セリーヌは静かに首を振った。
「徒歩で、辺りを見て回ろうと思います」
「ランクールまで四時間以上かかるぞ」
ナルシスとシャルロットも失笑しているが、胸にばかり栄養が行き渡ったようなこの体では行き倒れてしまうに違いない。
「徒歩はダメだ」
そんなことは許さない。いや、許されてはならない。この美貌と胸は世界の至宝だ。
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