第5話 8月5日
—水郷商店街―
???
「よお、何やってんだよ」
清行
「やあ辰兄、仕事はもう終わったの?」
振り返ると、ボロボロの軽トラックから辰兄が身をのり出しててを振っていた。
がりがりエンジンから騒がしい音を立てながら、辰兄の軽トラックは漏れの隣に並んだ。
辰樹
「おうよ、たった今終わったところだぜ。これからひとっ風呂浴びて晩酌だな」
清行
「辰兄って何歳だっけ……」
辰樹
「がははっ、知らねえな。俺は今から帰るとこだけど、よかったら送ってってやろうか?」
清行
「助かるよ、それじゃ遠慮なく乗せてもらうね」
辰樹
「おっそこは特等席だぞ。俺の隣は皆乗ろうとしねえからな」
そういえば……。
辰兄の車には、乗るなってみんな言ったような気がするなあ。
清行
「ちょうど用事が終わって帰るところだったんだ。本当にナイスタイミングだよ」
辰樹
「おう、そいつぁよかったぜ」
清行
「へえ、免許取ったんだね。運転は大丈夫?」
辰樹
「もちろんだぜ。毎日仕事で使ってんだからな。それじゃ出発すんぞ」
辰兄がそう言うと軽トラックのタイヤは唸りを上げて、砂埃を巻き上げながら急発進した。
パンッパンッパンッ。
清行
「ちょっと、辰兄。今変な音しなかった?」
辰樹
「心配すんなって、こいつボロいからガタがきてんだろ。ほ~らスピード出しても大丈夫だろ。……あれ?」
パンッパンッ。パンッパンッ…。
がくがく車体が揺れてエンジンから変な音が聞こえる。
スピードメータの指す速度は下がっていき、軽トラは徐々に失速してしまう。
それでもなんとか走っていたけど、最後にプスンと音を立てて止まっていしまった。
清行
「止まっちゃったね」
辰樹
「まいったな、ガス欠みたいだ。いやいや入れるの忘れてたぜ、ガハハハ」
清行
「どうするの?」
辰樹
「止まっちまったもんはしょうがねえ。俺が下りて後ろから押すからよ、清行お前ハンドル握っといてくんねえか?」
清行
「漏れ免許なんて持ってないよ、それに押して動くものなの?」
辰樹
「俺が押すだけだから免許なんていらねえよ。たまにこうガス欠になったときは押して帰ったりしてんだ、これは親父に教えてもらったんだぜ」
恐るべし翠屋親子……。
辰樹
「送るって言ったけど、俺んちに向かってくんねえか?」
清行
「うん、しょうがないよ。辰兄が失敗するのはいつもの事だし」
辰樹
「なんだと。いや……こいつぁ完ぺき俺のミスだな。つき合わせちまって悪い、ありがとよ清行」
清行
「いいよ~ぜんぜん」
辰樹
「ようし、早いとこ帰ろうぜ。俺が押しゃあ家なんて直ぐ帰らあ。ハンドル頼んだぜ」
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