第180話 貴重な休日の使い方
都は俺が以前経験したときとは比べものにならないほどにに賑わっていた。
ヴァレッタ先輩曰く、七年前の顕現祭がかなり好評だったらしい。
ミレサリア殿下が行った厳かな式典の素晴らしさが口伝えに語られ、前回訪れることが叶わなかった人たちがこぞって王都へ集まっているそうだ。
俺もあの式典は今でも記憶に焼き付いている。
あの式が今年も見られるとあっては──多少無理をしてでも費用と時間を捻出するだろう。
それだけの価値はある、俺は自信を持ってそう断言できた。
つまり、この人たちのほとんどがミレアを見に来たというわけか……
俺は青姫の人気の高さに改めて感服した。
「線なし君、明日の休みはなにか用事とかあるの?」
運河通りに入ってすぐ、ヴァレッタ先輩が訊ねてきた。
思えばシュヴァリエールに行って、フレディアの妹を治療したあの日が最後の休みだった。
その次の休みは交流戦の説明をするということでヴァレッタ先輩から指導を受け、その次の休みは前回説明しきれなかった交流戦についての補足説明をするということでヴァレッタ先輩から指導を受け、その次の休みは交流戦で勝利するために腕輪の効率的な使用方法を伝授するということでヴァレッタ先輩から指導を受け、結局、ここ最近は休みがまったくなかった。
「明日はフレディアと知人を訪ねる予定です」
さすがにロティさんもお怒りだろう。
いや、実際は怒ってなどはいないと思うが、王都に来て三カ月も顔を合わせていないとなると、お世話になっているコンティ姉さんにも申し訳が立たない。
明日こそはロティさんに会って、延び延びになってしまっていた治療を施す予定だ。
その前に宮廷薬師であるバルジンさんのところへマールの花も持っていかなければいけないし、治療が早く済むようであれば冒険者街にあるルディさんの食堂に行ってクロスヴァルト産羊肉の買い付けもしたい。
要するにようやくやってきた明日の休日は、一アワルも無駄にすることはできない、ということだ。
「そっか、腕輪の驚くような使い方を教えて──」
「先輩? 前回の休みのときにこれがすべて、って言っていましたよね?」
「そうだっけ? ああ、ええと、交流戦の対戦相手だけれども、そのことについて──」
「先輩……先輩もどんな相手なのか知らない、って言ってたじゃないですか……もしかして先輩、俺の休みを奪おうとしてます?」
「はぇ? そ、そんなことはないですヨ? うん、休息は大事、私の話は気にせずにゆっくり休むとイイ」
「……先輩、少し前から思っていたんですけど、俺になにか話したいこととかあったりします? なんかこう、歯切れが悪いというか──」
「いや、あ、うん……」
「話したくなければ別にかまいませんが、どちらにしても明日は予定が詰まっているので」
そう言いながら俺は、人混みの中に不審な人物はいないかと目を凝らす。
『でもこれは家のことも関係するから……』
先輩が小声で呟くが、俺にはその意味は理解できなかった。
そして運河通りを人混みを掻き分けながらしばらく進んでいると、
『──なにを言うか! これはもともと壊れていたではないか!』
『よせ、モルガ、この店主の言う通りだ、私が不用意に触れてしまったのが悪い、代金を支払い穏便に済ませるのだ』
『しかし姫様! この髪飾りがクレール金貨一枚などとは──』
俺たちの耳に揉め事を予感させる会話が聞こえてきた。
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