第55話 サイド盗賊 団長バトス
この世界に違和感を感じたのはいつからだっただろうか。
千を超える傭兵を率いて、領主お抱えの傭兵団となった。
いくつもの戦果を上げ、貴族の称号を与えられるまでになっていた。
しかし、その成功の中、漠然とした不安があった。
このまま、ずっと順風満帆な人生を送れるとは思わなかった。
予感だろうか、いや、これは確信だった。
やがて俺の傭兵団は壊滅する。
それは、まるで決められている運命のように、そう感じていた。
傭兵団の新入りに、パズンという若者が入った時、確信はさらに強まった。
「オイラの能力は絶対記憶です。これからのバトス傭兵団の栄光の記憶をすべて後世に残したく入団いたしました」
田舎から出たばかりのこの若者を見たときに、一つの結論に至る。
「記憶か、お前はこの世界の事をどれだけ知っている?」
「田舎で育ったため、詳しくは知りません。教科書に載っている歴史程度ならすべて記憶していますが」
ああ、やはり、そうだ。
俺は何度もこの会話を経験している。デジャブではない。
「全部教えてくれ。なるべく細かくだ。俺は世界を知りたい」
パズンに世界を聞く。
創世記、龍時代、猿人時代、人の誕生、世界戦争、五大大陸、魔王生誕、四天龍、勇者、世界王......
「とってつけたような歴史だ。まるで子供が考えた物語のようだな」
笑いそうになる。
この世界には漠然とした設定のような歴史しかない。
なぜ、誰もその事に気がつかないのか。
パズンは不思議そうな顔でこちらを見ている。
「お前の絶対忘れない記憶に、この傭兵団の壊滅はないのか?」
「まさか、バトス傭兵団は永遠に不滅です」
絶対記憶のスキルですら覚えていない。
だが、俺の中には記憶が残っている。
俺達はやがて盗賊団に身を落とす。
そして、異世界から来た者達と戦い殺される。
全身機械の男。
大剣を背負った幼女。
銃を持ったオカマ。
熊に変化する黒人。
動物使いの狩人。
爆乳の女騎士。
様々な者達に殺されるたびに、また一から始まる。
何度も何度も繰り返される。
最初は夢か何かと思っていた。
だが、世界の矛盾を感じ始めた頃から、それが夢でないと思いはじめた。
「俺たちはたぶん、ただのチェスの駒だ」
パズンは意味が分からず、ただ俺に愛想笑いをしていた。
予想通り、悪徳領主の策略でバトス傭兵団は盗賊団へと身を落とす。
悪徳領主を恨みはしなかった。
事前に策略を看破し、運命を変えることが出来るはずだった。
しかし、調べれば調べるほど、それは不可能だということがわかった。
計画を練っているはずの領主は、ただの飾りで、裏で糸を引いている者がいることが判明した。
だが、その者の存在がわからない。
いや、それが人間だということすらわからなかった。
まるで運命そのものが、俺たちを盗賊団へと身を落とそうと仕向けているかのようだった。
この世界を作った神の存在。
強く、それを感じるようになった。
「パズン、神が出てくる神話や物語を調べてくれ。どんなに嘘くさいものでもいい。その話を俺に聞かせてくれ」
いつか、神に会ったらやらねばならないことがある。
そうだ。
するべき事は一つしかない。
パズンが話した神の物語。
この世界を作った神は孤独で、すべての者を拒絶する。
触れる者は存在を否定され、世界から消える。
そこにあり、そこにない。
そして、神を殺した者は解放される。
ただの作り話、そうは思わなかった。
この世界のルールは単純だった。
異世界から来る者達の為の世界。
俺達はただの駒で、やられる為の存在。
だから他の細かい設定は、適当でしっかりしていない。
ただのホラ話などこの世界にはない。
何度も繰り返される世界の中で、神を見た記憶が朧げに残っている者が語った話なら、それはまぎれもない真実だ。
目の前の男をずっと待っていた。
自分以外の者が、誰も世界の矛盾に気がつかない孤独の中、俺はずっと待っていた。
「神よ、俺はずっと貴様を殺したかった!」
突進して戦斧を振り落とす。
男の頭から地面まで斧が突き抜ける。
ゆらりと男がこちらを見た。
感情が流れて来る。
とてつもない負の感情。
存在を否定し、世界から消そうというのか。
だが俺は消えない。
神を殺して、この世界を解放する。
「バトス団長っ!」
パズンが叫ぶ。
戦斧とそれを握っている両手が溶けかけている。
「俺は此処にいるっ」
全身に力を込める。
感情を爆発させる。
「俺達は此処にいるんだっ!」
溶けかけていた手と戦斧が元に戻る。
「あ、あぁああぁ」
男が俺の感情に呼応するように叫び出した。
「アイっ、アイっ、アイっ!」
何かを叫んでいる。
それは神にとって大事な者の名前か。
そして、俺や俺の仲間や、この世界の者達すべては、お前にとっては、ただの遊び道具かっ?
「ふざけるなっ」
全身を怒りが包む。
燃えるような怒りの塊をぶつけるように戦斧を振るった。
先程とは違う、肉と肉をぶった斬る感触が腕に伝わる。
「あ......」
男の右腕が切断され、地面に落下する。
血が噴き出る。
それは、俺達の緑の血とは違う赤い血だった。
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