第34話 完璧なハッピーエンド

 

 カムイの部屋は、自分の部屋とはかなり違っていた。

 部屋の間取りは3LDKといったところか。

 ベッドも豪華で大きなものがあり、ソファーやテレビの他に木製の大きなテーブルと椅子がある。


「座れ」


 そのテーブルに案内される。


「これは......」


 テーブルの上に二つの教室模型が置かれている。大きさは一つが縦横1メートルくらいだろうか。

 机と椅子。そして椅子には人間のフィギュアが座っている。

 縦に五、横に五、全部で二十五組の椅子と机。そのすべてに人形が座っている。

 それが二つ、合計50体の人形。

 教室の模型の黒板にはA、Bとそれぞれ書かれている。

 人形にはすべて番号と名前が書かれていた。


 カムイ 1番

 ラス 2番

 カケル 3番

 シズク 4番

 アキラ 5番

 エミル 6番

 ゴウ 7番

 カナ 8番

 リキマル 9番

 サヤ 10番

 クリス 11番

 アリス 12番


 知っている名前がいくつかある。

 カムイ、ラス、クリス、アリス。


 ハヤト 13番

 イリア 14番

 シュウゾウ 15番

 ナミ 16番

 オグマ 17番

 ルカ 18番

 タツヒコ 19番

 ミソラ 20番

 シンジ 21番

 リサ 22番

 タロウ 23番

 ナギ 24番

 シュン 25番

 リンダ 26番

 ススム 27番

 サクラ 28番

 コウジ 29番

 アイ 30番


 ルカやシュン、そしてアイ。

 もうすぐ自分の33番か。


 ヨシアキ 31番

 ハル 32番

 キョウヤ 33番

 ナナ 34番

 ヒロシ 35番

 リリン 36番

 ボブ 37番

 カオリ 38番

 ヒデオ 39番


 ハジメという名前はなかった。

 33番がキョウヤになっている。


「お前の名前はない」


 そうか、俺は呼び出された時、間に割り込むのか。

 カムイとテーブルに向かい合わせで座る。

 二人の間に教室の模型。


「何度クリアしてもやってくる人間は同じだ」


 教室に入っていない51体目の人形をカムイが取り出した。それには名前も番号も書かれていない。


「50人、人形に書かれている名前の人間が全く同じ順番でやってくる」


 33番キョウヤの人形が座る席に名前のない人形を無理矢理座らせる。キョウヤの人形がはみ出して倒れる。


「お前以外はな」


 カムイは一体何のためこのような模型を作ったのか。


「俺は一体何だ?」


「神だ、ただし劣化した贋作だ」


「贋作......、神のニセモノなのか?」


 カムイが首を振る。


「正確には分身だ、ゲームをする時、自分の分身を作るだろう。まず最初にするのは何だ?」


 考える。自分がゲームを始める時に何をするか。


「名前を入力する」


 カムイがうなづく。


「前のお前の名前はヌケサクだった。その前はああああ」


 ああああはひどい。


「俺が呼び出すたびに神はラスボスとして自分の分身を作り出す。適当に作ってるんだろう。記憶も曖昧だし名前もいい加減だ」


 ひどいな、これは。思ったよりもきつい。


「お前は永遠に死に続ける神のコピー。ただの量産型のラスボスだ」


 言葉もない。全人格を否定されたようだ。


「俺の生きる意味はないのか?」


「誰も生きる意味などない、言ったろう。ここでの命は平等に価値がない」


 ナナやキョウヤも、そして、アイや俺も、命に価値はないのか?


「なら、お前は何の為にクリアを繰り返しているんだ?」


「完璧なハッピーエンド」


 キーンコーンカーンコーン


 カムイがそう言った時にチャイムが鳴る。

 夕食の時間だが俺もカムイも動かない。


「昔やっていた手強いシュミレーシュンゲームがある。仲間は死んでも生き返らない。だが一人でも生き残っていればゲームは進んでいく」


 記憶が少し蘇る。

 そんなゲームをしたことがある。

 オーケストラが演出するCMのゲームだ。


「そのまま最後のステージをクリアすればゲームは終わる。だが死んだ仲間のエピソードがなくなる。それは真のハッピーエンドと言えるのか?」


「まさか、お前は......」


 カムイの言うハッピーエンドは、もしかして。


 キョウヤの席に座っていた名前のない人形を掴む。

 そこにキョウヤの人形を置く。


「50人全員が生存して、お前を倒す。それが完璧なハッピーエンドだ」


 息を飲む。

 カムイはそのために何回もクリアをやり直しているのか。


「すでに今回は失敗している。お前が死ねば最初からやり直しだが、別に焦りはしない。すぐに死んでもいいし、足掻いて粘ってくれても構わない」


 本当にそうか?

 カムイは今回のミッションで俺を助けたように思えた。

 まだ何かを隠しているのか?


「お前くらい強ければ全員守ってクリアくらい余裕でできるんじゃないか?」


「強さだけではどうにもならない。クラスの容量は25人ずつ。片方しか見ることはできない。さらにミッションだけで命を落とすわけではない。仲の悪い者同士で殺し合うこともあった」


 人間管理。

 この模型はそのために作られたのか。


「俺は、俺だけが」


 模型を見る。

 そこに自分の名前だけが存在しない。


「俺だけハッピーエンドがないんだな」


「いいや」


 カムイが二つの模型を持つ。


「お前が俺を殺せばお前のハッピーエンドだ。ただし、それは」


 模型をひっくり返す。

 バラバラと人形が飛び散り、机からも何体かこぼれ落ちる。


「それはすべての屍(しかばね)の上で成し遂げられる」


 そうまでして生き残りたいのか。

 カムイはそう言っているのだろうか?

 いや、そもそも俺がカムイを倒せるはずがない。


 今、はっきりとわかる。

 このデスゲームの主人公はカムイだ。

 俺はただのイベントモブで、クリアの為にいるだけの存在。


 希望はない。絶望のみがここにあった。




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