1-16 かつての同僚との再会

 街道に合流し、昼食代わりにミレットとローフォンをボリボリ食べながら歩いて三時間、予定通り市街への入り口であるナフタ大橋まできた。


「でっか……」


 全長百ジィあるナフタ大橋は出入りする人間を改める門も兼ねている。華麗な装飾が施された石造りの門は防衛施設というより旅人を迎えるモニュメントだ。


「はい次の方ー、ステータスカードと滞在目的をどうぞー」


 カードを渡すときちらりと斥候隊長の顔が浮かんだが、気にしないことにする。さすがにナフタまでは追ってこないだろう。


「目的は渡航です。軍を退役したので開拓団に入ります。まだどの属州に行くか迷ってますが」


「そうですか。頑張ってねー」


 雑だった。帝都に入るときにはかなり根掘り葉掘り聞かれたんだけど、やっぱり人が多すぎる帝都から平民が出ていくのは望ましいんだろうな。

 門を抜けると長い橋が目の前に広がり、その先に小島の上に作られたナフタの街が見える。


 アーリアの一つティーラ首長国と戦争していた頃、軍港だったナフタは島の大半がベージュ色の石で要塞化されていたらしいけど、今は海に面した側は切り崩され、斜面に白い壁の建物が並ぶ風光明媚な港湾都市になっている。ただし俺に観光をしている余裕は無いのでとっとと目的地に向かう。

 計画的で野球場のように扇状に広がる要塞側を無視し、なだらかな坂の小さな店が続く商業地区に入り、一軒の宿屋にフラリと入る。

 久しぶりだけどあんまり変わらないな。厨房から離しておかれた貫禄のあるバーカウンターで、覇気の無い青年がジョッキを洗っている。ありふれたバーテンの仕草なのにうさんくさい。


「シーフギルドはここか?」


「……しらねぇよ」


 青年はジョッキを磨く手をとめない。


「頼むよ『じいさん』、コンラッドの奴がポーションをくれってうるさいんだよ」


 青年はため息をついてジョッキを布の上に置いた。


「その棒読みはやめてくれ。何度も古い合い言葉を聞かされてうんざりする」


「だよな」


 渋面をつくる青年に苦笑いを返すと、相手はシンクから離れ、そのまま壁際までいき、通路を塞ぐカウンターの天板を跳ね上げた。


「通れよ。バックヤードのワイン樽の裏だ」


 茶番を演じる見張り役に同情しながら店の奥へと進んでいく。樽の裏の隠し戸を通れば、入口と同じような間取りの酒場が現れる。


「見ねぇ顔だな。誰の紹介……って、お前もしかしてコールか?」


 カウンターの中でワインを手酌で飲んでいた巨漢が間抜けな声を上げた


「いや、誰だよお前。こんな樽のようなシーフにあったことないんだが?」


 かつて痩せぎすだった頃の面影がまるでない。


「いうじゃねぇか。ここにいたときは始終しょぼくれてたくせによぅ!」


 カウンターから腹をつかえさせながらでてきたひげ面はガハハと笑いながらピューターのゴブレットにワインを注いで突き出してきた。


「話は後だ。とりあえず再会を祝して飲もうぜ」


こっちの話を聞かないかつての同僚トマスのオークのような手を思わず見つめた。

思わず、ため息がもれる。時の流れは恐ろしい。

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