1-09 現場検証——名探偵隊長


「ハーピィは高い練度の範囲魔法、氷槍か土槍で殲滅されてます。特殊個体は中位以上の火魔法と土槍で討伐されていますが、地面に痕跡がないなど不明な点があります」


「独自魔法か? 範囲魔法も威力範囲を考えれば技術以前に出力が高い。中位魔法二種を扱う一人より、二人以上がいたと考える方がいいか」


 隊員の多くが周辺を駆け回り捜索を続け、街道に残ったベテランたちが可能性について話し合っている。ご苦労さま。


「護衛の死因は全員、上空からの岩石による攻撃でしょうね」


「ハーピィが石を落とすのはないわけではないが、そこで死んでいる特殊個体の魔法がまず魔導具の結界を食い破ったのだろう。暗闇からの不意打ちでは鉄級一位のパーティもなすすべがなかった、という所じゃないか?」


 あのパーティは銅級目前だったのか。少し同情してしまうな。


「そのあと居合わせた別のパーティが特殊個体だけ引きつけ分断し、食事に夢中な群れを範囲魔法で、特殊個体を火魔法で逃げられる前にほぼ同時に殺したか」


「魔石も特殊個体のものしかとっていない。護衛の貴重品にも手をつけていない点からも金には困っていないのかもしれない」


 なんか褒められている? 悪い気はしないけどハズレだな。少しでも軍が回収に来た理由が分かればと残ったが、あんまり理由については話してくれない。もう離れるか。


「まだみつからない?」


 議論を続ける兵から少し離れた所、ちょうど野営していた岩場の真下にヒゲを蓄えた小柄な人が無表情で部下の様子を眺めている。


「はい隊長! 現在も人の移動できる範囲の街道、岩や灌木の影も探しておりますが未だみつかりません! やはり賊はバッグを奪った後に馬で走り去ったのではないかと愚考します!」


 声と体がでかい新人らしい隊員の報告におもわず頭を抱えた。

 この部隊、やっぱりバッグを回収するためにここに急行したんだ。


 俺がため息をついている向こうで、報告を受けた隊長はひげをなでて答えた。


「その線も無い事はないけどね。もっと可能性の高い仮説があるよ」


 新人は首をかしげるばかりだ。たぶんだけど威力偵察要員の脳筋新人に隊長は構わず話を続ける。


「まず馬車と貴重品が残っていてバッグが無い。馬車はマジックバッグに余裕で入るのにね? この一点で賊は我々が来るギリギリまでここにいたことがわかる。なにか音拾いの魔法で聞かなかった?」


 おや、新人はただの肉体派じゃなくて遠くの音が聞ける風魔法が使えるらしい。だから斥候隊に配属されたってことか。


「いいえ! 到着するのを優先したため魔法は使っておりませんでした!」


 悪びれないなぁこの新人。


「うん、そうか。とにかく馬の線は無いんだ。蹄鉄の跡がないからね。賊は徒歩で急いで徒歩で逃げた? 周りは先輩達が探し回っているのに」


 隊長辛抱強すぎじゃない? なんなのこれ推理ドラマのクライマックスなの?


「風魔法使いは身体強化と魔法を合わせれば馬並に速く走れます!」


 自分基準で考えるなよ。この新人先輩の話聞いてなかっただろ。全属性適性持ちの俺が言うのもなんだけど、複属性持ちはとんでもなく稀少なんだぞ? 


「ハーピィを殺した魔法は土槍だと思うよ。少なくとも一人は出力がやたらでかい土魔法使いだね」


 とうとう隊長スルーし始めたよ。根拠はわからないけど当たってるよ。


「知っての通り、魔法は距離による威力減衰が激しい。ハーピィを気づかれない距離から一網打尽にできる者なら中位以上の属性適性があるはず。中位土魔法には土遁がある。今でこそ土遁は攻城戦で使う坑道掘りの魔法だけど、元は逃げるために使われていた魔法なんだ」


 うん、当たってる、今俺土遁で潜って話聞いてるからね。


「しかし、土魔法は燃費が格段に悪いですよね? ならまだこの近くにいるということでは?」


 うわ、新人がようやく普通なことをいった。隊長もやっと無表情やめてくれたよ。口元だけしか変わってないけど。


「そうだね。そして逃走するため、高い確率で我々の話を聞いているだろう。もうすぐ屯所から攻城戦対策の地下探査魔導具が到着する。索敵圏から逃れるほどの規格外でない限り見つけられるだろう」


 煽ってくれるじゃないか。呵々と笑う隊長は見えない俺に今自首するか魔導具で引きずり出されるか選べとおっしゃっている。


「お気遣いありがとうございます隊長殿」


 自分が規格外かどうかはわからないけど、逃げ切れるところまで行ってやろう。おとなしく自首してもろくな事にならなさそうだからな。




    ――◆ ◇ ◆――


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