1-08 拾った郵送物の中身

 結論から言えば生存者はいなかった。

 二百ジィほど走った先に御者と護衛らしき影があったけど、結論から言えば皆頭を割られていた。馬を屠ったのと同じ、人の頭ほどもある岩が転がっていたので、それで割られたんだろう。

 魔法で作った岩はすぐ消えるから、あれらは普通のハーピィが複属性の奴のまねをして落としていたのだろう。やっぱり倒しておいて正解だった。


「さて、夜が明ける前にもらっとくか」


 頭を切り替え、それまで明かりとしていた火魔法の篝火かがりびの火を落ちていたランプに移した。

 この世界では城壁の外に落ちているものは拾った人のもの、ということになっている。たとえ死体が身につけているものであっても同様だ。


 ただし死体の持ち物の場合、所有したいのであればまず行政が買いとる事になっている。そのまま使用すれば関係者ともめ事になるからだ。一定期間受取人が出なかった場合、拾った者が買いとるか、素材にばらされて魔導具の素材になる。

 手続きが面倒くさいので正規の手続きをするのは修行僧くらいで、夜盗や食い詰め者は持ち逃げする。

 俺も昔食い詰めてやっていたので、魔獣殺しを含めてそのあたりの仕事に抵抗はないけど、今回はやらない。今回は個人の遺品よりよっぽど高いものが手には入るからな。

 持ち主が死んだ荷馬車に一人で居合わせるなんてそうそうあるものじゃない。可能なら一台丸々所有できるからだ。


 ただし独り占めできる一方で、物色の途中で他の狩人のパーティや訓練中の小隊などが来れば争いは避けられない。数にものを言わせて追い払われるのがオチだ。だから必要な品と一番の金目のものを最短で確保して立ち去るのがベターだ。


「帝都を出るときは金がなくてろくに装備も調えられなかったからな。まず武装だ」


 魔法が使えるようになったとはいえ、さすがに丸腰だときつい。さっきみたいなレジストなど、魔法を封じる手段はいくつかあるからだ。


「ブーツ、手甲、ジレ風のアーミーベスト、マントの革物四点。背負いびつももらっておこう。武器は……ナイフとホー・シールドでいいか」


 ホー・シールドは小型の細長いカイトシールドのような盾だ。基本的に壁の外にでる一般市民がもつような護身用なので狩人に因縁をつけられることもないだろう。

 その他にもこっちの世界のタクティカルベルトとかいくつか有用な道具をもらって櫃に詰め込む。さて、さくっと金目のものをもらうか。

 破壊された馬車の前面に所謂宝箱が転がっている。御者台の下にしまわれていた最重要の荷だ。


 宝箱は扱いに困るものだ。厳重な鍵がかかっていて普通のパーティならシーフギルドで高額な解錠料をはらって開けてもらうしかないからだ。赤字になることも珍しくないので博打にちかい……のだが。


 ――カキリ


「……シーフギルドにいたときに出来ていればクビにされなかったのにな」


 この通り、今の俺は鍵開けができる。鍵開け、その他技巧系スキルには下位魔法の技能は必須で、最下位魔法しか使えなかった昔の俺では無理だった。

 ——勉強もするし、勘がいいのかすぐにスキルを手に入れる。だが下位魔法が使えないんじゃどうにもならん。いちいち魔石で補助していたら儲からない。今のうちに他へいった方がお前のためだ——


 行く先々で言われた言葉だけど、他人事のような過去の話だ。全属性で下位魔法が解放された今は出来ることが増えているのだからまったく気に病む必要がない。


「さてご開帳……?」


 そこにあったのは小袋。宝箱の大きさにはあまりに不釣り合いだ。ここには普通、商会の手形や貴族の機密文書など金になるもの、高価な魔道具などが入っているはず。

 袋の中に手を突っ込んでみると、手紙の束が出てきた。明らかに持っている袋より重い。


「これ普通に考えて、マジックバッグだよな? え、いいの?」


 予想外に貴重すぎるものが入っていたのでしばらく固まってしまった。金目のものを期待していたんだが、さすがにこれは予想していなかった。


「さすがにこれ取ったら追っ手にガチ勢が入ってくるよな」


 マジックバッグが入っているということはこの荷馬車はただの運送業者じゃない。なんらかの機密文書がバッグには入っている。盗まれたとなれば追っ手が送られてくるだろう。失敗しても報酬をあきらめればすむ狩人ではなく、指令があるまで捜索を止めない軍の斥候兵が出てくるかもしれない。

 だがそれでもマジックバッグは欲しい。どれだけ金を積んでも縁が無ければ手には入ることはないんだし。


「中身を出し切ればいいか」


 しばらく考えたあとに結論をだした。追っ手が欲しているのは機密文書だ。特定はできないのでバッグの中身をすべてぶちまけて捨てることになるけど、これがベターだ。


 ――、――。


 ヤバい! 

 馬の蹄の音が近づいてくる。しかも結構速い。中身を出している場合じゃ無い。

 慌てて馬車から離れ道の端を目指す。


「なんで馬車ごと収納しなかったんだよ三分前の俺!」


 若干の後悔とともにバッグをかかえ、土遁で身体を地に潜らせた。




    ――◆ ◇ ◆――


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