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「私、髪の毛だけはみんなに褒めてもらえるんです。だから少しでも綺麗な髪でいたいなって思って」

「確かに、とても美しい髪ですもんね」

「髪だけは真っ直ぐなんで」

 そう言って、ふふふ、と微笑む。

「そんなこと」

 ないでしょうに。むしろ髪が混じりけなく真っ黒で真っ直ぐなのは美しい心の表れでは?

「さすがバーのマスターですね。お口が上手い」

「とんでもございません。私、嘘だけは付けない性格なんです」

 だってそう思ったことは嘘じゃないもの。

「ふふふ、ありがとうございます。髪、ちゃんと手入れしていて良かった」

 そう言って傾げた拍子に髪がサラリと揺れる。あ、触ってみたい。なんて思う俺は変態か。

「でもね、髪ってとても重いんですよ」

「え、そうなんですか?」

 髪が重い? たまに切るタイミングを逃して伸びてしまう時もあるけど、そう考えたことはなかったかも。

「そうなんですよ。肩こりもするし」

 へぇこりゃ女性は大変だ。肩こりの原因が男よりもある。

「それじゃぁお客様の髪は凄く重いんじゃないんですか?」

 ストン、と背中に落ちた髪はツヤツヤで言われてみれば重そうにも見えないことはない。髪が黒いからってだけではなくて。

「重いですよ。髪を高い位置で結ぶと揺れた髪に頭が持って行かれるくらい」

「えっ、そうなんですか?」

 それなら想像していたよりも髪はとても重い物なのかもしれない・・・まじか。

「良かったら持ってみますか?」

「え」

「きっと重くてびっくりしますよ」

 なんて瞳を三日月にして可愛らしい笑顔で言ってくる。おいおい、俺が触ってもいいのかい? と思いつつもつい手が伸びてしまう。

「いいですよ、もちろん。マスターなら優しくしてくれるでしょう?」

 ・・・その言い方には語弊があるって。


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