僕のホームズ、紹介します!
吹井賢(ふくいけん)
プロローグ
僕が、彼女のことを『僕のホームズ』と呼ぶようになってから、どれくらいの時間が流れただろう。
彼女は今日も鶴を折りながら、綺麗な蒼い目を細めて語り始める。
「かの名探偵ホームズの発言の中で、私が一番好きな言葉が何か知っていますか?」
ううん、知らない。
どんな言葉なの?
ワトソン役である僕がそう言うと、僕のホームズは微笑んだ。
天才故の不遜さが見え隠れする妖しい笑みを湛えて、彼女は続ける。
「『There is a strong family resemblance about misdeeds, and if you have all the details of a thousand at your finger ends, it is odd if you can’t unravel the thousand and first.』――全くその通りだと思いませんか?」
彼女が引用したのはシャーロック・ホームズシリーズの記念すべき第一作、『緋色の研究』の一節だ。
ワトソン博士に対し、ホームズが自身の職業を説明した後に述べた一言。
曰く、「犯罪には強い類似性がある。千件の事件の詳細を知りながら、次の一件を解決できないとすれば奇妙なことだね」。
そういう意味合いの言葉だ。
「別に私は探偵ではありませんが、ホームズのこの言葉は私の考え方にも通じます」
いつものように、完成した鶴をベッド脇のビニール袋の中に落としながら、僕のホームズは言った。
「物事の基本は応用です。この世に溢れる謎の多くは基本の応用で解けるような、つまらないものなんですよ」
そして彼女は今日も謎を解く。
私は探偵ではないと口にしながら、退屈凌ぎに未解決の謎を解く。
―――今から僕が語るのは、そんな僕のホームズのちょっとした活躍譚だ。
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