癒せ!ブッ殺セラピー!

しゃけ

プロローグ

「はょざ……」

 口をもごもごと動かし「おはようございます」の代わりとする。誰も返事をするものはいない。満員電車に五十分も揺られたせいですでに疲労困憊、背中や股の辺りに大量の不快な汗をかいている。

 彼は席につきパソコンの電源を入れた。どうせなかなか立ち上がらないので自動販売機まで歩きブラックの缶コーヒーを購入、席に戻ってそれを飲む。クソうまくもないらしく苦々しい表情である。

 そこへ。メガネをかけた中年の男が歩いてきた。オフィスチェアを乱暴に手で押しながら話しかけてくる。どうやら彼の上司らしい。そいつは不快なべちゃべちゃ声で『顧客からクレームがありその対応をしなくてはならない』という内容を語った。

「だからキミ。今週の土日。出勤してもらっていいか? 両方」

「今週はちょっと予定がありまして……」

「いや予定とかじゃなくて。出ろつってんの」

 彼はその言葉を受け無言で立ちあがった。

 上司の眼前に直立し、そのギョロっとした目を真っすぐに睨みつける。

「なんだ? 逆ギレか? そもそもおまえの仕事が――」

 彼は懐からなにか黒いものを取り出した。それは。よく見ると拳銃だった。

「なっ――!?」「くたばれ」

 上司の心臓に銃口を押し当て引き金を引いた。

 銃声。鉛の弾丸は上司の体を貫いた。ドス黒い液体が噴出する。

 オフィスがざわめき、キャアアァ! という女の叫び声が響いた。

「血ってくせえなあ」

 近くに座っていた角刈りの男性社員が殺人鬼を取り押さえるべく襲いかかって来る。

 彼は拳銃を床にほおり投げると、座っていたイスを振りかぶって男のアタマに叩きつけた。男は鈍い音と共に仰向けに倒れる。イスはバラバラになって床に飛び散った。

「こんなもんで済むと思うな!」

 追い討ちをかける。彼はパソコンとディスプレイをつなぐケーブルを引っこ抜きそれを男の首に巻きつけ固結びにした。そしてケーブルの結びつけたのとは反対側を握り、

「うりゃああぁあぁぁ!」

 ジャイアントスイングのように振り回し壁にブチ当てる。男の首が体から分離されゴロンと転がった。

「次はてめえだ! なぜならツラが気に食わねえ!」

 デスクに駆けあがってジャンプ。対面の席に座っていた髪の毛の下側を刈り上げた男に飛び膝蹴りを食らわせた。男は情けない悲鳴を上げながら床に倒れる。

「うすらハゲ! おねんねはまだ早いぜ!」

 男を彼を頭上に持ち上げると、

「ボルダリングでもしてやがれ!」

 壁に向かって放り投げた。ビターン! という音と共に壁に激突、ずるずると滑り落ち床にひれ伏す。白い壁には幾筋もの亀裂が走りさらに濃赤色の川が流れた。

「ファアアアアア! や、やめて下さい!」

 今度は茶色い髪の毛をマッシュルームカットにしてクロブチ眼鏡をかけた女が、けたたましい悲鳴をあげながら駆け近寄ってくる。彼は、

「ブスの癖にいいカラダしてんじゃねえ!」

 口からコーヒーと思われる茶色い液体を霧状に噴き出してブスの視界を潰すや、彼女のアタマを自らの股に挟みこみそのままジャンプ。脳天を床にしたたかに打ちつけた。大技・パイルドライバーの炸裂である。

 さらに。叫び声を上げながらデスクを頭上に振り上げ――――――


 ――――約一時間後。

「こちら領収書となります。またのご利用をお待ちしております」

 妖しい外国人の女が彼に一枚の紙片を手渡す。それにはこう書かれていた。


ブッコロセラピー サラリーマンコース 領収書


オフィスデスク・チェア破壊  

¥5000

オフィスウォール破壊     

¥5000

ブッコロイド破壊(陰湿上司)

¥23000

ブッコロイド破壊(体育会系)

¥23000

ブッコロイド破壊(ツーブロック野郎) ¥21000

 ブッコロイド破壊(サブカルクソ女)  ¥20000

 エアガン使用料(弾代込)       ¥1000


小計                 ¥98000


有限会社 コロセラ


(ううむ。あれだけ暴れて十万いかないとは! 安い!)

 とはいえ。こんなサービスが大人気だというのだから全くもって世も末、ひでえストレス社会になってしまったもんだ。彼はそんなふうに思った。


「やあ。お疲れ様」

 妖しいガイジン女はオフィスに戻ると、机にちょこんと座った褐色肌の少女に声をかけた。

 少女は無言で視線を上げて女を見つめる。

「今日もバッチリだったよ」

 女がサムズアップしつつそのように述べると、少女は表情を一切変化させぬまま、両手を腰に当てて「ドヤッ!」というポーズを取ってみせた。

 女は少女の頭をそっと撫でると、自席にどっかりと腰を下ろした。

「あ、そうそう」葉巻に火をつけつつさらに言葉を発する。「明日高校生のアルバイトの子が二人、面接に来ることになってるからよろしく。わりと歳も近いし仲良くしてね」

 少女はゆっくりとした動作で頷いた。

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