第80話 クリームで台無しに
「あ、ありえないわよ!何ためらいなく子ども姿の私を攻撃してくるのよ!」
空にいては狙い撃ちされると気がついたらしい幻惑師の幼女はパンツ丸出しにしながら地上に落ちてきた。
黒いフリル付きワンピースのツインテールロリに思わないことがないことも無い。
いくら同性と言ってもこの年齢の見た目の子どもに攻撃するのは…と思うが、イアンは青年の見た目で200歳以上。
魔族なら見た目より年齢がいっていておかしくないし、なにより先制攻撃してきたのは向こうだ。
「イアンが苦しんでるから容赦しない」
「へぇぇ、そんなにその子が、ぐほぉ」
イアンに杖を向けようとした彼女を容赦なく蹴り飛ばすと足元に落ちた杖を叩き切った。
よくあるよね、媒介が無くなると攻撃がなくなるとかそういうの。
涙目で私を睨みつける幼女をこれ以上いたぶる趣味はないが、仕方ない。
「覚悟を決めてもらおうか」
「な、なによ、あんた、悔しい悔しい悔しい!!私の杖を返しなさい!」
「じゃあ、私の大切なイアンに危害加えるのやめてよ。それと恥じらいを覚えなさい、一体何歳よ」
「くぅぅぅ」
地団駄を踏む幼女に呆れながらそう言うと悔しそうに睨みつけるだけでそれ以上何も言わない。
戦意がないなら戦う必要も無い。
「イアン、平気?」
「姉さんのおかげで、元に戻りました。さすが姉さんです」
「う、うん。まあ良かった」
青白い顔のイアンは心配だが早く離れないといけない。
こんなに人目のつくところでやらかしているのに、何も来ない王都は嫌な感じだ。
普通は衛兵とか、自警団とか、野次馬とかがいておかしくない。
何も来ないということは、既にいる可能性が高い。
「いい気味ね、ニーナ」
地面に座り込む幼女に近付く人影にため息をついた。
気のせいでなければ、そこに「めーてる」と書かれた甘味屋がある。
この騒ぎで人が来ないのは、この場所を塞ぐ権力があるか、そう扇動できる能力があるか。
今回はどっちもだろう。
どこからか香る甘い薔薇の香りがメアリーの術中にいることを教えてくれる。
薔薇が嫌いになりそうだ。
「ラグラステール、っなんの用よ」
「本当に無様だわ。それに、仮にも私は幹部。そーんなお口を聞いてよかったかしら?ちょうど、彼らも来たし、貴女、任務にも失敗しちゃってるもの」
魔王軍の幹部、見た目だけなら超美女のメアリー・ラグラステールが口元にクリームを付けたまま微笑んだ。
構図だけみたらゲームなら間違いなくリアル映像になって臨場感溢れる光景で流していてもおかしくない場面なのに、クリームがそれを台無しにする。
口拭いてから出てきてよ、台無しだから。
「要らないわ。それに、この子たちは私が大好きな子なの。いたぶるのは私だけでいいわ」
そう言うと高笑いをする。
こわ!!
メアリーさん、サッパリしたヤンデレなの!?
いやいや、その組み合わせおかしいし!
内心でツッコミ入れていたら、イアンが私の手を引いていた。
『いまのうちに』
口パクでどうするかを教えてくれたイアンに大人しく従って高笑いするメアリーさんからゆっくり逃亡した。
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