第78話 王都入口

そびえたつ高い壁、所々に除く黒い金属は砲台だろうか。どこぞのアニメを思い出す荘厳な城壁に緩くうなづきながら普通に突破することにした。

イアンが言うなら「もうメアリーは気がついている」状態らしいし。


王都の魔族の住む国と反対側、つまり他の人間の国に繋がる街道だからかすごい馬車の列だ。そこに並んで正規突破するのがいいだろう。

明らかな魔族感で通れるとグートはいう。冒険者の中にも魔族がいたと聞いているけど、もしかしてイアンだけなのだろうか。そんなことはないと思うが、いかんせん管理がザル過ぎる。

本当にコダマと呼ばれる指揮官が私と同じなのか怪しい気がしてきた。同じような経緯でココにいるならもう少しきめ細やかなサービスを提供していておかしくない。私ならそもそも冒険者ギルドの離反なんてさせない。



「ねーねー、お姉ちゃんたちは何売ってるのー?」

「……腕力?」



不意に前の馬車の荷物の隙間から質問が飛んできた。ツインテールの小さな頭が何かが入っている皮袋の向こうからこっちを覗いている。


馬車がガタガタ動いて、小さな声で女性が謝ってきた。



「申し訳ございません。うちの子が…」

「お気になさらずー」

「そうなの?腕力って売れるの?」

「売れるよ」

「特に世界が変わるときは、高く売れます」



意外と子どもという存在に慣れたのかイアンが補足を付け加える。辺りを見渡したら興味津々で私たちを見る人たちがいることに気がついた。

こっちの方では、混血のデミヒューマンも少ないのか、耳が生えたりしている人も少ない。


それに比較して…


グートは言わずもがな。めっちゃデカい。座っただけで馬車レベルの場所を使ってる。

イアン、仮面で顔を覆って黒づくめ、めっちゃ怪しい!加えて近づいてくると冷気、寒気を感じるとかいうオマケ付き。

私、子ども見た目のくせにアクセサリーのようにじゃらじゃら武器をぶら下げている。旅装なのに真っ白とかいう、イアンとは別の理由で怪しい!

白は晴着もしくは労働から開放された貴族の象徴、それなのに汚す気満々の旅装が白。矛盾でいっぱいだ。



「うわ、自分らめっちゃ怪しいね」

「今更なんだよおお」



グートが涙目だ。


そのグートの視線の先に、城門の上から頭を出す規格外のなにかが見えた。気のせいとは思えない。



「おとーちゃんがいるんだよおお」

「グートオオオ!!!なんでここまで来たんだアアア」



声でか!!


巨人の親子の感動的な再会は周囲の人にとって大災害だ。グートがなにか言い出したあたりで耳を塞いだ私たち2人はまだしも、直撃している周囲の人は呻いている。


門を屈んでくぐり抜けた巨人はのっしのっしと歩いてくる。これと戦うとなったら不味いな。サイズを見た限りでは間違いなくグートよりは強いだろうし。

その握りしめた大きな拳でグートを殴った。めちゃくちゃな音がしたが、受けてるグートも規格外。大したダメージはなさそう。親子の戯れが災害級だ。

殴られたグート、地面にめり込んでるんだけど。グートはこれを予期して涙目だったに違いない。



「一緒にいるのは、む、吸血鬼とミックスか?珍しいが、メアリーの差し金だな」

「そおだよおおお」

「息子が世話になったな。父親のファイアットだ」



デカいだけでめっちゃ真っ当だった…。



「どうも、こちらこそお世話になりました」

「このあとは?」

「道中一緒に来いとしか、あとは私たちやることがあるので別行動になりそうです」

「ふむう、メアリーのことだ。お前らの仕事は想像つくが、倅は我で引き取っておこう」



王都の人は、魔族が話したらわかる意外と真っ当なヤツらだったから受け入れていたのか。これは本当に、王都からしたら反乱者は冒険者ギルドの方なのかもしれない。



「グートまたね!はい、これ、お守り」



袋は露天で買ったちょっと色のついた可愛らしい小さな巾着、中身はいつもと同様になにかの端材だ。ゴミとかいうことなかれ、これで私はメテオストライクを撃つんだから役に立つこと間違いなし。



「おまいら気をつけていくんだぞお」

「グートもね」



バイバーイと手を振ってくれているが、きっと次に会う時は全力で戦うことになる気がする。魔族の支配から逃れるために冒険者たちが集結しているのだから。


頑健で堂々としている門をくぐり抜け、太陽の恵みに照らされた街として有名な王都についた。



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