第44話 城崩し
私もなかなかファンタジーになってきたのかもしれない。
草の匂いを運んでくる風は外を感じさせてくれる。長閑な気分になりたいのは山々だが、無視出来ないほどに大きい今回の標的を見据えた。
街道の向こうに大きく鎮座する閉じられた大きな門は砦の門に相応しく、石造りの台座に扉は大きな磨かれた黒色の扉だ。
繋ぎは金属で、錠はない。上下に動かして開け閉めするタイプの門だと思う。これをこれから道具、鉄球を使って壊すというのだから驚きだ。
火山の懐に頼んで、いつもの適当な形をしている廃材ではなく少し重い球体を用意してもらった。本当に今日投げるものは球だ。材料が鉄かどうかはしらないけど。
不機嫌そうではあるもののパーティ解散をイアンに言われることなく任務を受けていた、むしろこれまで以上に過保護になった気さえする。
作戦実行のときになってもイアンは何も言わずに私の背後に立っていた。
イアンは自分から私がいれば余計なのが近付いて来ませんからと微笑む。みんなが身を震わせていたから魔力が外に漏れてたんじゃないかと思う。
私が門を壊したあとに正門からトップで市街を駆け抜けることになるクレスニクと偵察で街中を掌握しているウォルトが私たちの背後に控えている。
まあ私が無理だったら石つぶてを門に投げつけるイタズラをした子どもということであっさり謝り撤退するだけだ。
「カコさん、良いのですか?」
「ここまでみんなを配置してからやらないわけいかないでしょ?それに、色々終わったら私は誰も知らないような村に家を買ってトマトを育てるスローライフをすると決めてる」
「この先陣を切る意味はわかっているんですね」
「残念ながら…それを断れないことも知ってるよ。よし、時間かな。一投目、いきまーす」
ユーゴさんとイアンは意外と仲良しみたいでよく目配せをしている。イアンももっと早くユーゴさんも知り合いになっていれば孤独に苦しむことがなかったのではないかと思う。
だから私以外の人とイアンがもっと仲良くなればいいと思う。私と離れても他に人がいると思ってくれないと、不安だ。
いつもより大きい球体は少し私の手に余るぐらいの大きさだが、いつもとは異なり投げやすい真ん丸の形をだ。ちょっと息を吹きかけると球は曇った。
野球選手の見よう見まねで大きく振りかぶり、片足を上げてみた。
「メテオストライク《隕石》」
轟音とともに飛んでいく鉄球を見る限り、絶対鉄は溶けてると私は思うが、なんでか知らないけど無事に着弾する。もしかしたらこの鉄屑だと思ってた素材はドラゴンの牙とかが元なのかもしれない。
一打目が着弾する前に続けて投げつける。
「メテオストライク《隕石》、メテオストライク《隕石》」
小さな鉄球がぶつかったとは思えない轟音があたりに響いて、足元が揺れる。本当は5つ投げたかったが重いからかちょっと2つ目を投げるまでに時間がかかってしまった。
何かが崩れるような音と、続けて投げつけた2つ目と3つ目の轟音が響き、あちこちに弾け飛んでいる石や岩が飛んでくる。
イアンの前に立つが、いくらMPがない代わりにHPが高い私でもあんなものが直撃したらダメな気がする。それでも、イアンと私のHPでは私がイアンの6倍ぐらいある。イアンはイアンでMPに振りすぎでHPが低いらしい。
「クレスニク、出撃する」
そういうとジャックたちは走り抜けていった。重そうな盾を掲げているフランクさんも足が速い、どうなってるんだろう。
フランクさんの盾には石がぶつかりまくっているが、その背後を走る他のパーティメンバーへのダメージはなさそうだ。
ウォルト、敬称をつけないで欲しいと言われた、は風の精霊の加護を使って岩を避けながらフランクさんに行き先を指示している。
「まだ粉塵晴れてないからわからないのに」
「いえ、門は崩れました。辺りを覆っていた魔法に対する大きな圧力が消えましたから」
「へえ」
人外さにため息をつきたくなってきた。つくづくレベルは恐ろしいものだと思う、いや、怖いのはスキルか。レベルが低いときから似たようなものを投げてた覚えがある。
草むらの影から私たちをのぞきに来たハッピーブーブーをイアンの魔法が容赦なく黒焦げにした。魔法に気合が入ってる。
「粉塵が晴れたら私たちも行きましょう」
「そうね、あの門の圧力がなくなったら魔物が殺到するだろうからね。後方を守る役目を果たさないと」
クレスニクとヘカトンケイルを核とするランク2冒険者たちは先陣を切って敵勢力を倒しに向かっている。ボレアースとヴェルザンディを中心としたランク1冒険者で門がなくなったことによって殺到するだろう魔物の対処をすることになってる。
ゴブリンやハッピーブーブーがいるということはランク1だけでは手に余るかもしれない。
イアンの魔法で近くに来る魔物は次々に黒焦げになり、土に還る。
「イアン、行こう」
「はい」
粉塵が晴れると無残な門だったものが見えた。さきほどまでの立派な姿が嘘のように石垣は崩れて、木は折れて、支えていた金属はひしゃげている。
今度、マカオに聞こう。門を壊せて、ドラゴンすら跡形もなく木っ端微塵にする鉄球はやっぱりただの鉄だとは思えない。
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