第45話 剣の達人
この作戦の指揮官であるユーゴさんは
ギルド長、シモンとマリカ、そして殿下はギルドで待っている。この機会に殿下を狙いに来る人がいないとも限らない。
私の攻撃とその後の戦闘で街道として舗装されていた道は原型をとどめていない。歩きにくい道を踏みしめて街に向かっている。
「うわ、酷いね」
「姉さんの戦果ですよ」
「そうだね」
一瞬にして立派な門がガラクタになっていた。所々にある赤黒いシミがなんなのかなんて、この門がこの街を守る唯一の出入口だったことを考えれば当然の想像がつく。
勇者ではなく英雄を求められたからには覚悟していたつもりだった。
でも魔物だけでなく人間に立ち塞がられてしまうとどうしたらいいのかよく分からない。
わからなくても、自分がやると決めたことに付いてきているイアンやみんなを無駄な危険にさらさないためには一度決めたらやりきるしかない。そう再認識して瓦礫の上に立った。
「姉さん、ユーゴさんには言ってあります。ギルドへの最低限の貢献はもう私たちは返していると思います。もし、姉さんが望むならここでカコを殺してしまうのも仕方ないと。
姉さんが壊れるぐらいなら私もここでヴェルザンディは敗戦してカコとイアンは死んだ方がいいと思っています」
イアンの言葉に思わず振り向くとボレアースは門の外もっと後方で魔物と戦っていた。回復がいるパーティにブレはなく、淡々と魔物が討伐されていく。
ひたすら真っ直ぐに私を見つめるイアンの目には曇りも打算も何もない。
「ここで戦死したことにして、遠くに行っても構わないと。これだけの魔物が殺到しています。ランク1の冒険者の中には恐らくパーティごと全滅するところもあるでしょう
私たちはボレアースが見つけた大型の魔物と応戦している途中、刺し違えて死んだ。
ボレアースもその筋書きを知っています。聞かれたら答えられるように彼らは暗記してくれています
姉さんが私を庇って死んだ後に、私が後を追って死ぬ」
遠くから悲鳴と怒号が聞こえ、クレスニクが先陣をきる侵攻組と国軍の交戦が激しいことがわかる。
ボレアースとともに戦う冒険者たちの魔法の詠唱、弾ける攻撃の轟音があたりに響き渡る。助けを求める声も聞こえる。
喉は乾いていないのに口の中が乾ききっていた。優しくて優しくて、なぜこんなにも私に良くしてくれるのかわからない。
ユーゴさんもイアンも、利益なんかあるはずないのに。むしろユーゴさんはギルド利益と自分の安全を考えたら、私をギルドに留める方が利益だ。イアンもこれまでの全てを投げ打ってくれる利益がわからない。今のギルドならイアンを必要としてくれるのに。
「なんで?分からないよ」
なぜ私の都合の良いように彼らは優しくしてくれるのか。
マスクで顔を覆っても見えるイアンの表情には迷いはない。私が望むと言えばすぐに行動するだろう。
イアンと、ユーゴさんからの提案はすぐにすがりつきたくなるぐらい甘い誘惑だ。
「くっ」
その提案を考える余裕はなかった。
「君がメテオストライクを放った冒険者か」
素早い細身の剣が急襲してきた。私もイアンも急襲されるまで全く気がついてなかった。
反射的に抜いた片手剣がレイピアの突きを弾き返すが、淡い光が覆うレイピアは全く折れる様子がない。
魔力が通っている上に、業物の武器だろう。そうでなければ既に折れていてもおかしくない速度で繰り出されている。
蹴り飛ばして少しの間を取ろうとしたら、その蹴りを利用して少年はふわりと宙返りをして別の瓦礫の上に降り立った。
「MPがほとんど感じられないのに強者。であればメテオストライクを連発した冒険者だろう?さきほどの急襲で疲れ切ってると考えたのに、強いね。でもまだまだ甘い」
レイピアを持ち直した少年はなにも表情を浮かべない。殿下と同じ色合いの風貌から貴族だろうことはわかる。ただのヒューマンで金髪なのはほとんどが貴族、と本で読んだ。
「ルイス(ヒューマン) Lv.73」
のぞき見でステータスを見たらレイピアの熟練の理由がわかった。レベルが異様に高い。イアンや私だって、冒険者の中では既に高レベルに位置する。
確かにデミヒューマンよりもヒューマンの方が寿命の関係上、レベルは上がりやすいらしいがそれでも彼のレベルは常軌を逸している。
「武器に魔力を通せないほど使い切ってるのに、立ってる。それなのに迷ってる」
「随分とお喋りなのに名前は教えてくれないの?」
「ルイス、ルイス・テミス。兄上からあなたを見つけて殺すように言われた」
ガラス玉のような青い瞳に私が映り込んでいた。
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