第38話 クーリング・オフ大事

胡散臭く我々の旗頭の殿下を見やる。本当にこの方は王族として教育を受けられていたのだろうか。私はそういう疑問を持つが、感激している人もいるみたいだ。


臨時で招集があり、集まってみれば例の会議室に大勢の冒険者たちがいた。椅子の空きがなくイアンと寄り添って部屋の端に立つと、人混みから少し離れることができた。

その人数を集めて何をするのかと思えばラディウス殿下の演説らしい。演説内容は平和だったんですね!とでもコメントを付けておこう。


ぷよぷよを倒し始める前の私ならなんて素敵な殿下!と思っていたに違いない。いや、訂正、前世で帝王学を学んでいた私はダメだしを多くするだろう。


理想を語るのはいいけど、内容がダメ、だって魔族とサン王国を取り合うのに犠牲がでないわけがない。



「皆、欠けることなく頑張っていこう」



それ、絶対無理よ。私もそうしたいのは山々だけど、現実的によく考えてみて。


魔族はランク3以上でなければ相手にもならないし、先日話を聞いたメアリー・ラグラステールに至ってはランク4の魔法使いをさらっていっている。いうならもう欠けてる。戦争をするのに犠牲は付き物で、既に犠牲が出ている。

ほら、キルトたちフラッツァーは微妙な顔をしているし、前線となっている西側から来たパーティは何人か殺気だっている。


それにそうだねそうだね!なんて思ってるのはまだ魔族や強い魔物と戦ったことのない冒険者ばかりだ。


シモンとマリカは横に立っているものの、シモンに至ってはギルド長に熱い視線を送っている。せめて殿下見ろよ、殿下を。



クーリング・オフ制度があるならあの日街道に置き去りにしてくれば良かったとも思うが、彼がいなければ魔族に支配されたサン王国を正統に取り戻す義を得られなかった。

こんな危機に陥りながらも法律やら慣習やらを大事にしたい人はたくさんいる。その人たちのためにはこの殿下は必要だったのだろう。



「殿下がただの人ならいい人だねだけど、ちょっと厳しいね」



演説が終わったあと私がそう呟くとそれ聞いたイアンが囁いた。



「ギルド長、ユーゴさんも同意見みたいですね」



耳がいいイアンは2人の会話を聞いていたらしい。


そしてユーゴさんがこちらを見ている。淀みきった目に深い隈、そして嫌そうな半眼だ。仲間にはなりたくなさそうだ。

じゃなくて、私たちになにか用件があるみたいだけど、すごく嫌な予感しかしない。


そのまま無視して任務が貼ってある掲示板に行きたいのは山々だが、レオナルド殿下が王様を名乗り出してからランク3以上の冒険者は窓口で任務を指定されている。



「カコさ…ヴェルザンディ、任務行けますか?」

「いいですよ」

「ステータス見せていただいても?」



いつも勝手に見てなかったっけ?と思いながらもステータスと言って説明文を出してからそのボードをひっくり返す。誰かに見せたいのだろうと思って、みんなに見えるようにした。



『名前 カコ 種族 デミヒューマン

 Lv.40

 HP:330   MP:0

 力 :362   魔力:0

 物理防御:86 魔法防御:44

 すばやさ:97 幸運  :18

 スキル : 投槍術lv9 のぞき見 lv9 片手剣術 lv5 刀術 lv4 蹴術 lv3

 個性  : 物理的解決 

投てきの熟練者 剣の熟練者 打撃の使い手

 称号  : 仕事を増やさない仕事人見習い

       みんなに感謝できるひと

文化的最低限度の探求者

将軍と縁ある人

ドラゴンスレイヤー』



相変わらずHPと力だけがぐんぐん伸びてる。素早さもそれなりに早い。イアンが言うには幸運も普通より高いらしい。魔力なくて幸運低いとイーストシティにたどり着けなかった気がするからそこは神さまの心遣いだと思いたい。


私のステータスを見てジャックが口笛を吹く。すごく楽しそうだ。シモンの顔は引きつっている。本気で1も魔力がないとは思ってなかったに違いない。



「巨人並みの力だな。それなのに素早さはエルフクラス、反則みたいなステータスだな。本当にデミヒューマンかよ」



ジャックがニヤニヤしながら言う言葉を、ユーゴさんは見せたかったんだろう。その言葉を聞いてからステータスを消した。

本来なら冒険者は自分の手の内を明かしたりしないらしいが、魔力がない時点で私の手持ちが全て物理なのはみんな知ってる。


それにイアンに開示を求めたらそれは私が怒るつもりだ。でもこれでランク3にどうして私たちが居るかはわかったはずだ。

これで私たちに襲撃をかけるバカがいなくなればいいと、恐らくユーゴさんの作戦はそんなところだろう。



「ユーゴさん、どう?次の任務、ドラゴンぐらいいけそうじゃない?」

「ええ、ドラゴンも嫌だと思いますよ。気が付かないうちに木っ端微塵にされるのは」



深いため息と一緒に任務が登録されたカードが手渡された。




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