第22話 ドラゴン退治②

順調に歩みを進めた私たちは明日の朝には該当の森につける位置まで進んでいた。街道の脇にある冒険者や商隊が休憩するためにある空間で野営することにした。

日が暮れると魔法が全く使えない私は準備すらできなくなるため、太陽が夕陽になりそうぐらいの時間で見つけた小屋を活用する。


きっと魔法が使えたらもっと早く進めるのだろう。でもその分夜をゆっくり寝て過ごせる。


私が原始的に乾燥肉を火で炙っていたら、近くの野草と手持ちの調味料でスープを作っているイアンがいた。なんかごめん。



「うわあ、凄いね」

「ありがとう」



カブみたいな野菜が入ったスープは少しミント系の涼しい香りがする。薬草入りで疲れに効くというスープはとても楽しみだ。見た目からして大失敗な感じではない。

博識で(私が物事を知らないのもある)、料理も上手で魔法も使える。ステキなパーティメンバーが来てくれた。私だけなら肉を炙って手持ちのクラッカーで食べてしまう。



「姉さんが作っているのも美味しそうだよ」



姉さん。この美人な子に言われるとダメージが大きい。日本で言えばまだ中高生ぐらいの見た目の美形の男の子に「姉さん」なんて言われたら好きなだけ甘やかしたくなってしまう。

今ので脈が早くなった気がする。そのうち慣れると思うけどまだイアンの美しさにドキドキしてしまう。


イアンに他意はない。私が弟みたいだと言ったのを聞いて、弟ならずっと一緒に居られるね!と私を姉と呼び始めただけだ。元の原因は何をどう捏ねても私だ。



「そろそろ食べれるよ」

「ご飯にしようか」



ご飯を食べながら少しずつイアンの来歴を聞いていた。

個性の絶対零度のせいで人と一緒に仕事をすることができなくて1人でも仕事ができる冒険者になって、採集や調合、討伐の任務を受け続けて来た。だけど同じ街に居続けると噂になってしまうためある程度で街を転々と移動してきていた。



「え、この街、一番東にあるの?」

「はい。あの街はイーストシティ、最果ての森に接する街です。最果ての森の表層がランク1向けとは驚きました」



待て待て、知らない単語が出て来たぞ。最果ての森というのは私がシモンとマリカと出会った森のことだろう。2人もあの森がランク1向けの森と言っていたし。



「最果ての森の先に別の国があるの?」



図書室の本を読んで私がいる街が所属している国は太陽を意味するサン王国だというのは知った。王国というなら王政だろうと思うが、細かいことは知らない。ただの平民なら知らなくていいことがたくさんある。知らなくても生活は全く困らない。


その国の最果ての森というなら東側の端という意味だろうと推測してイアンにそう問いかけた。



「そういう説もあるにはありますが、世界の果てという意味合いの方が強いですね。あの森の向こう側にたどり着いてこちらに帰ってきた人がいないから…」



こわ!樹海的な発言聞いたわ。よくそんなところで何も知らない私を迷子にさせておいたな。怖すぎるわ。



「へえ…」

「だからイーストシティはほかの街より遠くて。防衛戦のあとだから街道は混んでて通れないとなると、街道を外れて進んでいたら魔物が多くて休めず街に行くことになってしまいました」



それで街で生き倒れることになったらしい。なんというか、個性が強過ぎて薄幸だ。

吸血鬼という種族みんながある個性なのだろうか、少し気になるがたいていこういうのは種族の話がご法度だったりする。私のデミヒューマン、なんのミックス?なんて誰も聞いてこない。


革の袋を適当にいじっていたら一昨日買ったリンゴが転がり出てきた。



「果物でも食べよっか」



イアンが手渡してくれたシナモンのような匂いがする葉っぱに包んで焼いたリンゴはこの世界に来てから一番美味しいデザートだった。

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