華駆の戦女神

藤原遊人

第1部

第1話 異世界転生

困ったことに青木華子は自分を見下ろしていた。

自分のデスクから立ち上がったところでぱったりと倒れている自分の身体、やっぱり働き過ぎだったに違いない。

「へぇ、幽体離脱ってやっぱりあるんだ」とかのんきに考えてしまうぐらい疲れで頭がまわっていなかった。



「こういうの、扱いに困る上にただでさえ多い仕事増やさないでくれます?」

「すごいきもちわかるわー」

「でしょうね!!神様見習いは過労死しないからよりタチ悪いと思いません?公務員と神様にも労働基準法を適用した方がいいと思わない?!」



しゃがみこんで自分を突っつこうとしている私、魂の方に話しかけてきた人を見やると社内では見たことがない人だった。

黒い髪を一つに束ねて、イライラしたようにボールペンをつかんだままの手で零れてきている髪の毛を後ろになでつける動作はとても覚えのある動作だ。


一方で私の身体がある現実の方では、私が倒れたのを見た同僚が慌てて救急車を呼ぼうとしている。が、なぜか上司は「そんなことしたら締め切りが間に合わなくなる!!」と謎の発言で妨害しており、私の助かる可能性はどんどん下がっている。

目の前で急降下だ。

上司の株ももともとこれ以上なく低いが、もっと急降下した。

株価が0になりただの紙くずになった株券よりも価値がない。


紙くずはまだメモ帳として役に立つ。


それ以下だ。



「なんなのこいつ!!私の仕事増やしたくて救命の邪魔してるんでしょ!!」



自称神様見習いのOLさんは若いOLさんらしくクズな私の上司にひとしきり怒ったのちに、私の方に向き直った。



「ご愁傷さまでした」

「あ、やっぱりだめ?」

「残念ながら」

「過労死しそうだから転職しようかなって半年ぐらい前に思ったんだけど、思い切っておけばよかった…」

「そうしてくれたら私の仕事も少なくなったのに」

「物理的にあの上司殴っておいたら、今、死んでなかったかも。つかまってたかもしれないけど」

「それでも、私の仕事は増えなかったわね」



ちょっとした雑談に付き合ってくれるぐらいには彼女はやさしいみたいだ。



「次の貴女がまた過労死しないように、転生をさせるから、今度は過労死なんてアホな理由で私の前にやってこないでちょうだいね!」



転生あるんだ?!

どこに!?

どうせなら美人がいい!!

とかいろいろな要望を述べたかった私を華麗に無視して、彼女は私を指さした。


ふわっと身体が、いや身体はそこに倒れているんだけど、軽くなった気がした。


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