第174話チートなサムライ三度08


「となると運用が妙ですね……」


 しばし、


「ふむ」


 とクロウは押し黙って思案した。


 辺りには倒れた兵隊たち。


 派遣兵の後衛だ。


 死んではいないが、皆々切り伏せられている。


「おおおっ」


 最後の一人がイズミに襲いかかる。


 蛮勇だが、賞賛に値した。


「天晴れ」


 手首を切り落とす。


 剣ごと地に落ちて、滝のような血流が出来る。


「はて?」


 先述の通り、恒久的にダンジョンを維持するなら、領土拡張は必須。


 その上で手打ちをするなら交渉事が必要だ。


 手札の切り方が不鮮明。


 ――其処を以て、軍隊が飢えないとするなら、共和国は余程富んでいるのか?


「…………」


「何か……懸念が?」


「仮に小生が将なら」


 ポツリと呟く。


「問題の傭兵を尖兵に推し当てますがね」


 要するにクロウとイズミの行為を盤面逆にして運用するわけだが、さっきから現われるのは士気の高い兵士のみ。


 数と質の勝負ではあるが、さすがに練度の差がそのまま戦力に直結すれば、偏に、


「こうなるか……」


 切り倒された兵士並々を睥睨して、チンと納刀するイズミ。


 補給地である村を確保するなら、基本的にそこだろう。


 分かって動かないのか。


 あるいは……、


「その者……」


「転生者か?」


「概ね……ではありましょうぞ」


 此処まで来て楽観論もなかろう。


 そう云う意味で、二人はあまりに危険だった。


「としますと……?」


 クイとクロウは首を傾げる。


 その側面を矢が飛んだ。


 林の陰へと消えていく。


 穏行している弓兵の奇襲。


 クロウとイズミの心眼ならば、捉えるに不足無し。


 熟々人間を止めている。


 中略。


「はあ」


 およその戦力を聞いて、無念の有様。


 拷問は趣味では無いので、長曽根虎徹を磨いているイズミを背景に、爽やかな笑顔でクロウが問いただした結果だ。


 クロウを弓矢で影から狙った弓兵さん。


「聞く人に不足はありませんから、喋りたくないのなら諦めます」


 と穏やかに言った物だ。


 外道とも呼べる。


「半個師団ですか」


 あくまで概算。


 それも共和国の西側から延びる補給線を足しての状況だ。


「実際の国境侵略はもっと少ない」


「頭大丈夫なんでしょうか?」


 それほどダンジョンが魅力的な……逆説の証左だろう。


 実際に感応石があれば、遠く離れた兵力を一律管理できる。


 魔金属に依る武装は、兵力を底上げする。


 物産品や魔術触媒まで手に入れば、それは垂涎のレベルではあろう。


 セントラルが恵まれすぎて、クロウにはいまいち理解不能だが、実際のダンジョン産業は鉱山より遥かに富を生む。


「お疲れ様でした」


 頸動脈を圧迫させて、弓兵を気絶させる。


 死なない程度に圧迫し終え、ドサリと横たえた。


「で、何か?」


「真意を聞く必要がありますね」


 とのクロウ談。


「どっちにしろ国土奪回レコンキスタはするんだろ?」


「さてどうでしょう」


「共和国側にでも身を売るのか?」


「そも小生は傭兵でございませんし」


「納得」


 イズミの付き添い。


 それ以上では無い。


 無論イズミも、


「クロウが考え無しに裏切りに奔ることはない」


 と知っているので、クロウの皮肉にはあまり揺さぶられなかった。


 砦へと歩く。


 先遣隊と守護隊の中間地点の伝達兵が、散発的に襲ってきた。


 剣。


 槍。


 矢。


 魔術。


「疾」


「射」


 その全てを叩き伏せた。


 イズミはそもそも全身是アンチマジック。


 魔術が通用しない。


 弓矢も心眼が完璧に捉え、躱し、打ち払う。


 クロウの方も似たような物だが、少し違うのは鬼丸だ。


 魔術そのものを触れた瞬間、無効化するので、


「範囲攻撃の方が対処は楽ですね」


 と相成る。


 そんなこんなでクルセイダーズと化し進軍。


 砦を視界に捉えた。

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