第16話セントラル国家共有都市領域07
セントラル騎士学院とセントラル魔術学院では往々にしてこんなテーゼが囁かれる。
「騎士と魔術師はどちらが強いか?」
クロウ辺りに云わせると、
「禅問答の域を超えませんね」
ということに相成る。
肉体を鍛え修練する騎士。
思念を鍛え修練する魔術師。
状況次第でどうにでも転ぶが故だが、それに納得できない人種というのも一定数存在する。
「遠くから一方的に攻撃できる魔術師が強い」
と魔術学院の生徒は言う。
「なら間合いの問題さえ解決するなら騎士が強いだろう」
と騎士学院の生徒が反論する。
「魔術に対する防御の装備を固めれば騎士が絶対に勝つ」
と問えば、
「それは例外中の例外だ」
と答えられる。
ダンジョンに於いては前衛と後衛に別れて共闘する関係だが、学院の生徒にとっては自身の所属する学院が隣の学院より戦力的に劣っているという考えが矜持を刺激するらしい。
結果、騎士学院の代表と魔術学院の代表が決闘をすることがままある。
「別にどちらでも構わないでしょう」
というアイナの言にクロウも賛成した。
もっとも意見としては少数派だが。
結局のところ戦略に則って適切な戦力を投入するのが肝要なのであって、カードの切り方に於いてそのカード自体の価値は左右する。
「若いなぁ」
なんて呟いてお茶するクロウだった。
相も変わらずメイド服でアイナのお世話を不器用にこなし、暇を見つけては剣の鍛錬を並行させる。
武士と呼ばれるが、こちらの世界では騎士相応だろう。
「クロウ様は剣を使いますよね。騎士側ですか?」
「どちらかといえば……ではありますが」
「魔術も修めてらっしゃいますものね」
「です」
頷いて剣を振る。
鬼の血が作用して幼い体躯でありながら愛刀の重さがしっくりくる。
この点に関してはオリジンに足を向けて寝られないというものだろう。
「アイナはどちらでも良いとは云いますが、自身を顧みて魔術師が騎士より劣っていると思いますか?」
少し意地の悪い質問ではあったが、特にクロウに他意は無い。
それはアイナとて十全に把握していた。
「どうでしょう?」
やはり禅問答ゆえ応答もぼやける。
少なくとも学院の教授をしている身であれば修めた魔術も誇りだろうが、こと戦闘に於ける相対性には希にイレギュラーが混じる。
理由無く負けることはないが理由無く勝つことは時折見かける。
「魔術を阻害する類の装備には確かに弱いんですよね」
それがアイナの正直なところだった。
貴重であるが故にベテランの傭兵でも身につける者は希だが、魔術を防御する類の装備は確かに存在する。
騎士学院の生徒程度ではさすがに身につけている者もいないだろうが騎士が魔術師に勝るという根拠の一つがコレである。
「はあ」
とクロウはぼんやり肯定した。
「仮にそんな騎士に出会ったらクロウ様は勝てますか?」
「んー、小生も未熟者です故……」
謙遜ではない。
自負はあるが驕りを戒めること大であるだけだ。
茶を飲む。
「結局見に行かれるので?」
とはクロウの言。
定期的な騎士学院と魔術学院の確執解消の儀式……というか決着すれば確執は深くなるのだが、ソレについては割愛。
「一応」
とアイナは答えた。
何でも研究室に配属したい生徒が居ないらしく、
「騎士学院との決闘に呼ばれる生徒なら見込みがあるかもしれない」
と淡い期待を持って見学に回るのが常とのこと。
「ですか」
とクロウは相槌を打って愛刀を鞘に収めた。
メイド服に日本刀というのも属性てんこ盛りではあった。
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