AI的平和計画

タルト生地

AIと人間の暴走



「戦争を……永劫に無くす方法……」


 蛍光灯に照らされて、雪面のように真っ白な部屋の片隅。人の形で人の言葉を喋る生命体ではないもの。

 椅子に座り、冷ややかな金属光沢をもつそれは、機械というにはあまりにも生命体独特の曲線美を兼ね備えていた。

「おお……ついにやったか……! 教えてくれ!」

 いかにも最近の若者な男に白衣を無理矢理着せたような違和感をまとった男、鈴井は『彼』に問いかける。

 ここは人工知能研究所、AIを搭載した人型のロボットを開発している。

 こう見えてかなり優秀な研究者である鈴井は仕事の合間を縫い、ロマンとやらを求めて『未来永劫に平和を維持するためのロボット』の研究を続けていた。その成果が『彼』なのだ。


「その方法は……」


『彼』は立ち上がり、そしてこう叫んだ。


「人類を滅亡させることだ!!!」





「いや、わかってるやんそれは。当たり前やん。何言うてんの?」

「えっ、いや、あの」

「はーほんまなんやねんお前。ちゃうやん、人類が生きながら戦争を回避する方法やん。人類が生きてるなんかもう言わんでもわかることやん。前提やん。今時高校生でもわかるわ。お前中学生以下か」

「あ、なんかその、ごめんなさい」


『彼』は少しうつむき、鈴井はさらに続ける。


「中学二年の男子なんか地球上の生命体で最もアホなんやぞ。塗り替えるなや。いよっさすがAIちゃうぞハゲ。テカテカピカピカしやがってほんま。イルミネーションでも巻きつけたろか」

「いやーあのそれはちょっと……」

「そしたらええなあ!もともとテカピカやのにキラキラも合わさってインスタ映え間違いなしや!そんでクリスマスにひとりぼっちで真冬の外に立っとけアホ。カップルに囲まれて写真撮られまくったらええねん」

「いやっフフッそれはあのっ」


 猛烈な勢いの悪口は逆に笑ってしまう。それはもちろん人間を元にしたAIにも同じことであった。


「だいたいなんで立ち上がったんやお前。なんや街に繰り出すつもりやったんか。アホかお前二足歩行がよーやっと安定して出来るようになったくらいなもんやないかい。お前なんかひよこにも勝たれへんわ。ピヨピヨチュンチューンってなんぼかつつかれてビビって転んで立てんなってそれで終いやボケ」

「いやそこまではないでしょ!」

「いやいやそんなもんや。そもそも戦闘能力なんかつけるか。メリット0やないか。やったやんお前猫に小判、豚に真珠と並んだぞ。クソアホAIに戦闘能力や!」

「いや俺は戦闘能力付いてないですからそれは違います」


『彼』は冷静なタイプのツッコミもできるのだ。


「だいたい普通の人間は超えるレベルの知能が組み込まれてるはずなんやで? それで出てくる答えがなんで人間以下やねん。あーあいつ頭良すぎて頭おかしなったんやなあ、の最高峰やん。なんやお前」

「Gané mucho conocimiento de muchos libros(沢山本を読んでインプットしましたから)」

「出してくんなや。何語で何言うたんや今。ほんま腹立つ」

「Я могу говорить на 32 разных языках(32種類の言葉を話せますよ)」

「あーもううるっさい。なんやお前喧嘩売ってんのか。お前なんか洗濯機に突っ込んでスイッチ入れたら終わりやからな。忘れんなよお前の身体能力の低さを」

「ふふふ。あ!そうだ、笑いの力で世界を平和にするっていうのはどうでしょうか」


 ちょっといいことも言える。


「やっぱアホやなお前。日本だけでもあれはおもろい、いやおもろない、あれおもろない言う奴はセンスない言うて喧嘩してんねやぞ。世界規模になったらもうしっちゃかめっちゃかや。だいたいお前人笑わせられるんか。そや、やってみろやなんか」

「ええー……最近肩こっちゃってもうカッチカチー……あ、金属やった俺」

「……んふふっ」

「あ、笑いましたよね今」

「ちゃうって! これはそう言うんじゃないやん! なんか呆れた時のやつやん!」

「いや呆れ笑い狙いのネタですから」

「いやいやそんなんなしやわ。正統派で! 正統派のやつで頼むわ」

「お肌のケア? 何もしてませんよ。金属ですから」

「いや一緒やん! なんやそれお前!」

「テンドンってやつです。ごっつええ感じのデータで学びました」

「ごっつええ感じをデータ言うなや。もうええわ……だいたい何が悲しくて自分で作ったAIに自分でツッコミ入れなあかんねん。冷静に見たらほんまにやばい奴やで俺」

「周りの人の会話などを聞いていると既にやばい奴ではあるみたいですけどね」

「バックアップごとデータ飛ばしたろかお前」

「あーそれは勘弁してほしい」

「二度といらんこと言うなよ。ほな俺は晩飯食いに行ってくるから。もっかい考えとけ。何のための優秀な知能やねん」

「はい……」


『彼』は再び椅子に座る。今度は馬鹿にされない考えを生み出すために。



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