外つ歌:草原の終わり、山のはじまり

 マヘラ姉ちゃんが神殿を破壊しているその裏でも、戦いは続いています。


 一度核兵器で戦線を押し返されたものの、青と青の軍勢は空の援軍を得て制空権を取り返すと、すぐに反撃に出ました。

 装甲車たちの三割を失いつつも、青の軍勢は翌日にはその大部分を修理して次々戦列に復帰させて行ったのです。全車が対NBC防御をしていたことと、主な損傷が爆風による横転や電子機器の故障だった事が幸いしました。

 青の軍勢は不死者を機関砲で、羊角の化け物たちを超高速ミサイル群で吹き飛ばし、手薄な敵右翼からの大規模旋回で包囲環を作ることに成功、一斉攻撃を行いました。


 この戦いで最高撃墜数をあげた者に、カムロンという者がいます。機体名をLEO=030といい、装甲の薄い装甲車の中でも比較的装甲が厚く、それ故に前線で重宝された、というよりも前に出て盾役をやることを強要されていました。


--敵近っ、近い!

 叫びながらカムロンが引鉄を引いているうちに、スコアがどんどん上がっていった、というのが本当のところです。彼は戦後、装甲を硬くしたばっかりにと良くぼやいていたそうです。

 実際、この日は全車が最大射程から射撃戦を展開したにも関わらず、敵は損害を無視して前進。カムロンを例に取ると最接近時で一五mくらいまで敵の接近を許す羽目になりました。当然車体は穴だらけであり、LEO=030は廃車になっています。搭乗員が無事だっただけ良かった、という感じです。


 当時のカムロンは知る余地もありませんでしたが、敵は包囲環を突破するために戦力を集中して一点突破を図っていました。その一点が、まさにカムロンのいた場所だったのです。

 カムロンは四〇〇〇発以上持ってきていた機銃弾まで撃ち尽くしてトリガーの引きすぎで指を痛め、最後は昼飯用の金属スプーンを指に結わえて射撃を行っていました。

 戦いが終わって彼が助け出されたのは夕刻頃。機体の惨状からして皆カムロンは死んでいると思っていました。


--あれ、生きてたんだ。

 と、仲間に言われカムロンは激怒し、無人にしては良く狙ってるなあと思ったんだよとさらに言われて倒れました。

 ともあれ草原を死の海に変えて戦いは終わり、青の軍勢は草原を越えて東の山嶺に軍を進めました。


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