外つ歌 再会の二
瞬はドリスに袖を引っ張られながら、グロリカから目が離せなくなっていました。
栄子に、似ているというよりも似すぎていると思ったのです。
--しかし、栄子は僕と同い歳だ。
グロリカは三一歳には、とても見えません。
次に思ったのは、栄子が、子供を作っていたという可能性でした。瞬はもうこの段階で、爆笑しながら周囲の全部を殺したくて仕方ありませんでした。
--いや、まだだ。正気を失うのはまだ後でいい。
瞬は人知れず深呼吸すると、ヨシュアの裏に隠れるグロリカを見ました。
--こんな子供までいたのにあの家のお嬢さんと仲良くしていたとは。
ヨシュアに言うと、ヨシュアは顔を真っ赤にして、大きく手を振りました。
--私に、こんな大きな娘が居るわけがないだろう。
--いくつなんだ。
--もう一八になる。
気恥ずかしそうに言うヨシュアを無視し、それでいてヨシュアの言葉を吟味して、瞬はヨシュアとグロリカの血の繋がりという仮説のを消しました。言い方からして兄妹、という訳でもなさそうです。
--良かった。
瞬は心の中でそう呟きました。もしもヨシュアが栄子の子なら、行方不明になったその歳か翌年くらいには孕んでいたことになっていたはずです。誰よりも栄子のために、栄子がそんなめにならずに良かったと、瞬は思いました。
--一〇歳かそこらで出産と、一五歳で出産は違う。いや、望んでいなかったら同じだが、とにかく。
瞬はヨシュアを見て人の悪そうな笑顔を見せました。その顔でグロリカが人知れず傷ついていることなど、知りもしません。
--しかし、だとすれば、その娘さんはなんだ。
--ついてきた。それをいうならそっちこそなんだ。その女性は。
--助けてもらったんです。
瞬の袖を握るドリスが言いました。ヨシュアは驚いた顔をしました。
--何を驚く必要がある。僕はいつでも困っている女性に親切だ。そもそもあのミサキという女性にも……。
--私が邪魔をしなければ、言い寄っていたのだろう。
--するわけがない。
吐き捨てるように瞬は言いました。それがグロリカをさらに傷つけました。
瞬は、グロリカの表情を勘違いしました。実際にはありもしないヨシュアへの恋心が砕けたのだろうと、そう思ったのです。それは瞬にとって、とても歓迎すべき事態でした。なにせヨシュアとくれば、絶対に女性を不幸にするような頑固さと女性など顧みない行動力があると瞬は評価をしていたのです。
瞬はどうやってグロリカを手元に置き、母について聞き出そうかと、そればかりを考えました。
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