北斎の犬
深夜。寝台の上に横たわるリチャードは見えない目で遠くを見るような顔をしたあと、不意に隣のリベカに話はじめました。
--戦いというものは、はじめたときには結果がでているのが望ましい。
--卑怯者の戦いだよ。それは。
--勝てばいい。
リチャードは平然と、言って、リベカに頬を引っ張られました。
--それで、どう戦いはじめたときに不死者相手に勝ちをきめるのさ。生きてるヤツなら僕がどうにでも切り刻めると思うけど、それで増えられちゃ困る。
--常に動いているのは一体という話だが、まあ、そうだな。連中にはどれが復活するのか分からなくなる強さがあるようだ。
--あんなに優しげだった皇女の身体に消えぬ怪我を負わせた事、後悔させてやる。絶対にだ。
--分かっている。私も同じ気分だ。落ち着きたまえ。
--方法考えてよ!
--考える段階にない。
リベカは驚いた顔をしましたが、リチャードには分かりません。彼はそのまま話を続けました。
--今考えるのは時間の無駄だろう。戦うのは当然、やるべきではない。今必要なのは情報、倒すために必要な情報だ。
--そんなの皇女が探し回っていたと思うよ。それで見つからなかったから……
--だったら、もっと広範囲にやろう。急いでご婦人を苦しめた連中を吊したいのはやまやまだが、無駄な殺し合いに付き合って疲弊するのは愚の極みだ。
リチャードは竜が奇妙な予言を告げたのは、これが一つの原因だろうとあたりをつけました。何を考えているのかはまだ分からないにせよ、戦わせたいのは事実であろう、とも。
それで、リチャードは情報を集め始めました。リベカが犬の似顔絵が持ってきたのは、それからすぐのことでした。
--リチャード、凄いかわいい三色の犬だよ! 凄い綺麗な絵に描いてあるんだ。
--それはそれで魅力的な話だが、不死者の情報は?
--うーん。
--ところでその絵は、珍しいのだろうか。
--うん。砂が波みたいにうねって、その波の奥に割れた山が見えて、手前に犬がいるんだ。茶色と白と黒の。
--犬の足は短くて、近くに人がいるとすれば、それは徒歩だね。
--うん。大股で元気よく歩いている女戦士だね。犬の足は短くてそれがかわいい。なでたい!
--馬を使っていない狩猟犬なら、それはビーグル犬だな。しかし……波の向こうに山。三色で配る、ということは多色刷り……北斎か?
--リチャード、情報収集で考えないとか言ってたのに、考えてるじゃん。
--何も考えないとは言っていない。我が帝国なのか、フランスなのか、それとも日本なのかはっきりしたいところだな。その絵を渡してきた人物は確実に皇女が調べた範囲の外側だろう。有用な情報が得られるかもしれない。すぐに接触したい。
リチャードはそう言って、犬、かわいいよねと言いたげなリベカの顔に触りました。
--犬はどうか分からないが、リベカは古代の彫刻家が一生をかけるに足る顔をしているように思える。
--リチャードの褒め方は一々分かりにくいんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます