商人の話

 マヘラ姉ちゃんによく迷惑をかけられている犬好きの商人の名を、ホンマと言います。

 前半生は良く分かっていませんが、四〇を過ぎて絵筆一本とロバ一匹の行商から身を起こし、正直で公正明大、儲けの七割超を地域に還元するという、当時の商人としては意味不明と呼ばれた方針でいくつかの国で信用を得て、その信用を莫大な借金に変え、その借金で砂漠を渡る巨大な隊商を組織、さらに稼ぎまくったという伝説の商人でした。

 砂漠のオアシス都市に、そんなに豊かでなくても木張りの家があるのは、この隊商の働きによるものです。

 ホンマの公正明大さと正直さは遠くエジプトや共和制バビロニア、多島海にも聞こえ、それらの国から財産の運用を任される一方、巨大な穀物庫を砂漠や北の大洞穴に作りあげ、飢饉になると食料を輸送し、いくつもいくつもの戦乱と悲劇を未然に阻止し続けました。踊るように舞うようにただ財貨の力だけで、彼は続く百年の平和を勝ち取ったと言います。

 老いて旅ができなくなると、妻も子もおらぬホンマは、一代で財をなして一代で身代を畳むということをやってのけ、どこの国の所属でもないオアシスに腰をおちつけて、各地の問題児とされるものたちを集めてはオアシスの住人として迎え入れました。


 さてこの商人ホンマは時々笑い話に登場します。マヘラ姉ちゃんに酷い目にあわされるのも大抵彼の役目ですし、正直過ぎたか簡単に詐欺に引っかかり、ものを喋る猫や犬を客としてもてなしたとも言われています。


 仲でも有名なのは娼婦エグランティカの話です。

 オアシスには娼館があり、エグランティカは中でも一番の美女でした。ところが、街の規模ほど娼館は立派ではありません。

 あんなに金を持っているのに遊びに来ないと、エグランティカは常々愚痴をこぼしておりました。

 商人はそれを聞いて多忙にて遊びにいけなくてすまないと金品を持って行かせたのですが、エグランティカはこれに激怒、私は物乞いではないと断って、話がこじれました。

 最終的には女遊びは好きではないが、絵のモデルになら、ということで、エグランティカと和解することになりました。この内容にエグランティカは勝った、この裸身を見て心動かぬ男などいないと思っていたのですが、数時間で憤慨して商人の館を出て行くことになりました。

 ホンマが描いたエグランティカの絵は、前衛的すぎたのです。鼻は長く鷲のくちばしのよう、目は隈取りで大変なことになっており、手は意味不明な形になっておりました。ホンマは商人としての才能はあったのですが、絵師としての才能は持っていなかったのです。本人は大層自信をもっていたそうですが。


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