四種族作戦会議

 角なしパン屋の中は砂漠の家にしては極珍しく、床が木張りでした。大きな音がするのがたまに傷ですが、存外過ごしやすいとのこと。

 その床に皿を置いて、山羊の乳とパンを置くと、それで食事の用意ができました。インディゴは尻尾を勢いよく振って、食事の合図を待つ様子。コンラッドはコップに山羊の乳を注ぐと、髭を震わせて食べて良いぞといいました。

「おいしいね!」

「まあ、ここのパンは悪くない」

「親方うちのパンはうまいって」

「犬や猫に褒められてもな」

 異族の少年と年寄りのパン職人を含めて昼休みです。この二人も、同じものを食べていました。むしろ毎日売れ残りのパンを食べていたのです。

「リベカちゃんはどうじゃね。お前さんにご執心だったが」

「今はリチャードについているはずだ」

 コンラッドが答えると、親方は皺深い顔をさらに皺深くしてため息をつきました。

「ああ、あの盲目の。女心は猫の瞳のごとく移ろいやすいもんじゃのう」

 正確に言えば、バビロニアの戦後処理に飽きてコンラッドが飛び出したので、移ろいやすいのは猫の瞳と猫の心なのですが、それについてはコンラッドは黙っていました。一々説明するのが面倒くさかった、とも言います。

「目の悪いリチャード一人にすることは難しい」

 代わりにそう言いました。

「まあ、それはそうか。それで、そこの犬はどうしたんじゃね」

「僕! インディゴ! おうちに帰る途中なんだ!」

「家が分からなくなったらしい」

「ふうむ。この辺では見ない犬のようだが」

「僕ビーグルっていうんだ。すごくかわいいってユーラちゃんは毎日僕を褒めていたんだよ!」

「尻尾を振るか、食事をするか、喋るか、どれか一つにしろ」

「僕どれもできるよ! お座りもできるんだ!」

 コンラッドがため息をつくと、親方は犬じゃのうという当たり前の感想を述べました。

「しかしてどうするんじゃね。この子の家を探すといっても」

「とりあえずつてを順番にあたってみようと」

「ほう。で、わしらは何番目じゃね」

「最初だ」

「次はどこに?」

「次はない、最後だ」

 親方と弟子は同時に微妙な笑顔になりました。種族が違うのに表情はそっくりでした。

「ふうむ。しかしわしはパン屋で犬のことはなあぁ」

「詳しそうな奴を紹介してくれればいい」

 コンラッドの言葉に、弟子が身を乗り出しました。

「親方、ケイフ先生はどうだい」

「あの御仁は危なっかしいところがあってのう。いい人ではあるんじゃが。そもそもわしらが行ったら逃げ出すじゃろ」

「あー。だいぶ未払いだもんね。んー。じゃあマヘラ姉ちゃんはどうかな」

「あの行き遅れか……」

 親方はそう言ったあと、ケイフ先生よりは良いかなと呟きました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る