色々残念ヨシュアの交渉
厳しめのことをヨシュアが言ったところ、娘は何かを思い出したか、ただ涙を流して動けなくなってしまいました。ヨシュアはそれでばつの悪い気分になって、服の襟を正して手を離してしまいます。
--随分と異教徒に甘くなってしまったものだ。
神の教えに従わぬなら兄すら討ち取っていたというのに、妖精の国で過ごしたばかりに今は猫探しの身だ。
ヨシュアは口の中で独り言を呟くと、娘に声をかけました。
--身につけている毒ならば解毒薬を持って居るであろう。それを渡せば解放する。
まともに戦って勝てぬと広く知られてから、ヨシュアは何度も毒殺されかけ、その方面には少々明るくなり、それ以上に毒を受けてもそうそう効かぬ身体になっていました。とはいえ、用心に越したことはないという考えでした。
--もう死ぬしか……ない。
娘の口からそんな言葉が出てきたので、ヨシュアは慌てて娘の顔を見ました。
--よせ。私の話が分かるか。
--お師さまについて修行した日々は無駄だった……
人の話を聞かぬところは妖精の巫女を思い出させました。茶色い食べ物をカレーと呼んでいたあたり、娘も妖精族かもしれぬと、ヨシュアは理解しました。
改めて顔を見れば金色の髪こそ人間のような感じであるものの、顔立ちはほのかに妖精族を思わせました。とはいえ、ヨシュアは女性の顔など美咲以外はまじまじと見たこともありません。違うと言われれば違うかもしれないと思い、それで別のことを口にしました。
--師がどのような人物かはしらぬが、せっかく教えたのに簡単に死なれたのではがっかりするのではないか。
--私は不肖の弟子だ。
--その辺は否定しづらいが、人の話くらいは聞くべきであろう。
きっ、と娘はヨシュアを睨みました。
--森の虐殺者にそんなこと言われたくはない!
--だから、今、そこの池に落ちてきたと言っている。
--バカにしないで! 池に落ちる前は遠くにでもいたいうのか!
--その通りだ。理屈は聞くな。邪悪な竜の仕業だ。
--竜……。
娘は身を起こすと、拳で涙を拭きました。
--竜は人を池に落としたりはしない。
--私もそう思っていたのだが、人語は喋る、話好き、さらに近所迷惑な邪悪な竜だった。まあ、竜は邪悪なのだが。とりわけ悪趣味な竜であったのは間違いない。名前を聞いてないのが残念だ。
--人語を喋る竜……名前を聞いていない、とは。
--名前があれば罵る時に便利だろう。
ヨシュアはそう言った後、手を握って痺れが増しているような感覚を確認しました。
--ともあれ、神に誓って嘘偽りはない。捕虜の解放条件も、だ。解毒薬を出せ。
--私は捕虜じゃない。取り消せ。
--解毒薬を出せばな。
ヨシュアはそう言った後、過去の反省を生かすことにしました。
--それと、名前を聞いておこうか。あとでいきなり襲われたことを思い出して、罵るためだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます